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肺がんの分子標的治療

Q.分子標的治療とはどのような治療ですか

A.分子標的治療は、がん細胞だけが持つがんの生存・増殖に関与する分子(遺伝子やタンパク)を阻害する分子標的薬を用いて行う薬物療法です。
 がん細胞が特定の標的分子を持たない場合は効果が得られません。


 従来の抗がん剤には、がん細胞だけでなく、正常細胞にダメージを与え、副作用を起こすという難点がありました。
 これに対し、がん細胞だけが持つがんの生存・増殖に関与する分子(遺伝子やタンパク)に狙いを定め、その働きを阻害することでがんの増殖を止めようとするコンセプトのもとに開発されたのが分子標的薬です。

 非小細胞肺がんの非扁平上皮がんで、手術不能なⅢ期、あるいはⅣ期に使用できる分子標的薬には、
①血管内皮増殖因子(VEGF)やその受容体に対する抗体薬である血管新生阻害薬、
②EGFR阻害薬、
③ALK阻害薬
の3種類があります。
ほかにも、がん増殖に関わるタンパクや遺伝子の探求が進み、それらをターゲットに新たな分子標的薬の開発が進行中です。

血管新生阻害薬

 血管新生阻害薬としては、ベバシズマブ、ラムシルマブがあり、がん細胞を増殖させる酸素や栄養を供給する新しい血管網の形成を抑えることにより、がんを兵糧攻めにして死滅させると考えられています。
 ベバシズマブはプラチナ併用療法と併用で初発(一次)治療および再発(二次)以降の治療に用いられ、ラムシルマブはドセタキセルと併用で再発以降の治療に用いられます(肺がんの薬物療法 図表12)。

EGFR阻害薬

 EGFRとは上皮成長因子受容体と呼ばれるタンパクのことで、がん細胞の表面に無数に存在し、がん細胞を増殖させるスイッチの役割をはたしています。
 EGFRを構成する遺伝子の一部に変異(異常な変化)があると、スイッチが常に入った状態となり、がん細胞が限りなく増殖し続けます。
 EGFR遺伝子変異をターゲットにしたEGFR阻害薬は、EGFRに結合して増殖を活性化させる指令の伝達を遮断(スイッチオフ)することにより、がん細胞の増殖を阻止する分子標的薬で(図表13)、第1世代のゲフィチニブ、エルロチニブ、第2世代のアファチニブ、第3世代のオシメルチニブがあります。
 アファチニブはEGFRのみを阻害する第1世代の薬剤と異なり、上皮成長因子受容体HERファミリー(HER2、HER4など)も持続的に阻害する作用機序を、オシメルチニブはT790M遺伝子変異のあるEGFRの働きを阻止する作用機序を持っており、その効果が期待されている分子標的薬です。

ALK阻害薬

 何らかの原因で、ALK遺伝子とEML4遺伝子が融合することで生じた異常な遺伝子であるALK融合遺伝子から作られるALK融合タンパクが、アデノシン3リン酸(ATP)と呼ばれる酵素と結合すると細胞を増殖させるスイッチがオンの状態になるため、がん細胞が限りなく増殖し続けます。
 ALK阻害薬は、ALK融合遺伝子の働きを阻止してがん細胞の死滅をめざす分子標的薬で(図表13)、クリゾチニブ、アレクチニブ、セリチニブがあります。

 EGFR阻害薬、ALK阻害薬はそれぞれEGFR遺伝子変異、ALK融合遺伝子がなければ効果を得られないため、投与前に遺伝子検査を行い、陽性の場合のみ単独で初発治療、および再発以降の治療に用いられます。
 EGFR阻害薬、ALK阻害薬の効き目はいずれも高いため、薬物療法の治療ステップの必ずどこかに用いることが原則とされますが、一般的に、より早い段階である一~二次治療から用いられることが多いです。
 なお、オシメルチニブは第1、2世代のEGFR阻害薬が無効な場合に再生検によりがん組織を採取し、EGFR T790M遺伝子変異検査を行い、陽性の場合のみに使用します(肺がんの薬物療法 図表12)。

 いずれの分子標的薬も、従来の抗がん剤に比べ、正常細胞に対する影響が比較的少ないのですが、標的分子の違いにより特徴的な副作用があります。
 血管新生阻害薬では消化管出血、高血圧、タンパク尿が、EGFR阻害薬では皮膚障害、下痢、肝障害などが、ALK阻害薬では消化器症状(吐き気・嘔吐、下痢など)や視覚異常などがとくに出やすい副作用として知られています。
 また、重大な副作用として、ベバシズマブやラムシルマブでは血栓塞栓症や消化管穿孔が、ゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブ、オシメルチニブ、クリゾチニブ、アレクチニブ、セリチニブでは間質性肺疾患が現れることがあり、致死的な肺炎になることもあります。
 分子標的治療を行う際には、効果と出やすい副作用を確認し、担当医や医療スタッフと話し合って納得して選ぶようにしましょう。
 また、どのような症状が出たときに、病院に連絡したほうがよいのか、夜間や休日の連絡先を含めて確認し、いつもと違うことがあればすぐに連絡することが大切です。

遺伝子変異の仕組み

参考資料

もっと知ってほしい肺がんのこと 2017年版,pp.16-17

公開日:2022年1月21日 最終更新日:2022年1月21日

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