NPO法人キャンサーネットジャパン > がん情報 > 血液がん > 原発性マクログロブリン血症の薬物療法

原発性マクログロブリン血症の薬物療法

Q.原発性マクログロブリン血症の薬物療法について教えてください

A.初回治療の選択肢は7つあります。どの治療が適しているかは年齢、就労の有無、合併症、腫瘍量、経済力などによって異なります。
担当医とよく話し合って治療を選択することが大切です。

◆WM/LPLの標準治療

 原発性マクログロブリン血症とそのほかのリンパ形質細胞性リンパ腫の標準治療には、以下の7つの選択肢があります(図表8)。なお、標準治療とは、現時点で最善の治療のことです。

①リツキシマブ(リツキサンほか。以下、() 内は商品名)単剤療法
②DRC[デキサメタゾン(デカドロンほか)+リツキシマブ+シクロホスファミド(エンドキサン)]療法
③BR[ベンダムスチン(トレアキシンほか)+リツキシマブ]療法
④BDR[ボルテゾミブ(ベルケイドほか) +デキサメタゾン+リツキシマブ]療法
⑤イブルチニブ(イムブルビカ)+リツキシマブ療法
⑥チラブルチニブ(ベレキシブル)
⑦ザヌブルチニブ(ブルキンザ)

 ここでは便宜的に番号をつけましたが、現時点ではどの治療が効果と安全性が最も優れているかはわかっていません。初回治療としてどの薬物療法が適しているかは、個々の患者さんによって異なります。

 どの治療を受けるかは、社会的な要素、腫瘍側の因子、強い薬物療法への適応性、各治療の効果、治療期間、出やすい副作用などを考慮して検討します。

 社会的な要素とは、就労の有無、通院にかかる時間、治療にかけられる経済力などです。

 腫瘍側の因子とは、主に腫瘍量のことです。 血清IgM値が高い(4000㎎/dL以上など)、過粘稠度症候群が認められる、骨髄中の腫瘍浸潤割合が多い場合は、腫瘍量が多いと考えられます。このようなケースでは、治療効果が速やかに得られる比較的強い治療法が勧められます。強い薬物療法が可能かどうかは、 年齢や全身状態、臓器の状態によって判断します。高齢 (80歳以上)、全身状態が悪い、腎臓や肝臓、心臓などの臓器に障害があるといった場合には、強い薬物療法を実施するのは難しいため、比較的マイルドで副作用の少ない治療法を選択します。

 薬物療法を選択する際には、担当医などの医療者と情報を共有し話し合いながら一緒に決めていく、シェアード・ディシジョン・メイキング(協働意思決定)が重要となります。

原発性マクログロブリン血症の治療選択肢

◆免疫化学療法とBTK阻害薬

 ①〜⑦の治療法は、抗CD20抗体薬のリ ツキシマブ単剤、あるいはリツキシマブと従 来からある殺細胞性抗がん剤やステロイド薬を併用する免疫化学療法(①~④)と、ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)阻害薬に よる治療(⑤~⑦)に大別されます。

 免疫化学療法では、基本的に点滴で薬を投与します。リツキシマブは、原発性マクログロブリン血症をはじめB細胞由来のがん細胞の表面にあるCD20タンパクに結合し、がん細胞の増殖を抑える分子標的薬です。①と②は効果も副作用もマイルドで、治療期間も短いのですが、効果が出るまでに時間がかかるので、症状が強く緊急性が高いケースには不向きです。

 免疫化学療法を受ける場合には、一般的には初回は入院し、2コース目以降は外来で治療します。点滴投与のために通院する必要がありますが、4~60週で治療が完了します。なお、原発性マクログロブリン血症に関しては、リツキシマブなどによる維持療法(治療効果の維持、再発・再燃の予防のための治療) の有用性は証明されておらず、免疫化学療法後は薬物療法は行わずに経過を観察します。

 BTK阻害薬は、IgMなどB細胞由来のがん 細胞を増殖させる信号を仲介するブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)というタンパク(酵素)の働きを阻害する分子標的薬です。IgMを増殖させる信号の伝達を阻害することで、がん細胞の増殖を抑えて死滅させます。

 原発性マクログロブリン血症とそのほかのリンパ形質細胞性リンパ腫の治療に用いられるBTK阻害薬には、イブルチニブ、チラブルチニブ、ザヌブルチニブの3種類があります。腫瘍量が多い、あるいは過粘稠度症候群を起こしているケースでは、短期間で効果が出やすい③のBR療法か⑦のザヌブルチニブが適しているとの報告もあります(※1)。⼀般的には、腫瘍量が多い場合には、④のBDR療法も推奨されています。

 BTK阻害薬は内服薬で、仕事や趣味などを続けながら治療を受けられるのがメリットです。ただし、効果が持続している間は薬を服用し続ける必要があり、新しい薬であるため薬剤費が高額になるのがデメリットとされ ます。また、内服薬による治療は継続して服用し続ける自己管理が重要であり、薬の飲み忘れが多い人には適さない治療といえます。

◆免疫化学療法

①リツキシマブ単剤療法
 1週間に1回、計4〜8回リツキシマブを点滴投与します。初回はインフュージョン・リアクションと呼ばれる過敏性反応が起こりやすいので入院し、時間をかけてゆっくり薬を投与します。

②DRC療法
 ステロイド薬のデキサメタゾンとリツキシ マブ、殺細胞性抗がん剤であるアルキル化薬のシクロホスファミドを併用する治療です。 デキサメタゾンとリツキシマブを1日目に約5時間かけて点滴投与し、1~5日目までシ クロホスファミドの内服薬を1日2回服用します。6~21日目まで休薬して3週間で1コ ース、これを6コース繰り返します。

③BR療法
 アルキル化薬のベンダムスチンとリツキシ マブの併用療法です。1日目にリツキシマブとベンダムスチン、2日目にベンダムスチンのみを点滴投与します。1日目にリツキシマブのみ、2日目と3日目にベンダムスチンを投与する場合もあります。その後は休薬し、28日間を1コースとして、6コース続けます。

④BDR療法
 プロテアソーム阻害薬のボルテゾミブとデ キサメタゾン、リツキシマブの併用療法です。 1コース目はボルテゾミブのみを1日目、4日目、8日目、11日目に点滴投与後、12~21日目まで休薬し、3週間で終了します。2コース目と5コース目は3つの薬、3コース目と4コース目はボルテゾミブのみを1日目、 8日目、15日目、22日目に点滴投与後、 23~35日目まで休薬します。休薬も含めて治療が60週間続き、最も通院回数が多くなる治療です。

◆BTK阻害薬による治療

⑤イブルチニブ+リツキシマブ
 28日を1コースとする治療です。イブルチニブは1日1回、効果がなくなるまで服用 し続けます。リツキシマブは、1コース目と 5コース目に1週間に1回、それぞれ計4回点滴投与します。6コース目以降はイブルチニブの内服のみ継続します。

⑥チラブルチニブ
 1日1回空腹時に内服する薬です。食事の影響を受けるため、食事の1時間以上前、または食後2時間以上経ってから服用します。毎日同じ時間に薬を服用するようにしておくと飲み忘れを防げます。

⑦ザヌブルチニブ
 1日2回約12時間ごとに服用する薬です。食事の影響は受けず、例えば、朝食前と夕食後に12時間空けて服用するなど、担当医と相談し、本人の生活に合わせて服用しやすい時間を決めます。

 BTK阻害薬服用中はグレープフルーツを含む食品をとると副作用が出やすくなるので、摂取を控えることが勧められます。

◆治療効果の判定

 原発性マクログロブリン血症の治療効果の判定には、原発性マクログロブリン血症の国際的な専門家会議である第6回WM国際ワークショップの判定規準が用いられています(図表9)。この判定規準では、症状、血清IgM値、リンパ節や臓器の腫れの有無をみる画像診断を組み合わせて評価します。完全奏効 (CR)は病気の治癒を意味するわけではなく、骨髄や血清の中の異常なIgMと画像上の病変が目に見えない状態です。

 ただ、前述(「原発性マクログロブリンの治療」)のように、原発性マクログロブリン血症の治療の目標は、完全奏効を得ることではなく、病気による症状を抑えることです。部分奏効であっても症状がなくなれば、治療効果があったと判断します。

原発性マクログロブリン血症の治療効果判定規準

◆救援療法

 まだ症状がある場合や増悪した場合には、救援療法を実施します。救援療法では、7種類の標準治療の中で最初に実施したもの以外の薬物療法、あるいはプリンアナログとも呼ばれる代謝拮抗薬のフルダラビン(フルダラ) を点滴投与します。救援療法として、どの薬物療法が効果や安全性が高いかはわかってい ないため、臨床試験への参加も選択肢になります。

◆予後と日常生活の注意点

 原発性マクログロブリン血症は一般的にゆっくり進行しますが、過粘稠度症候群が生じた場合には命にかかわることがあるので、注意が必要です。生存期間の中央値(生存率が50%になる時点)は5~10年以上ですが、完治は難しく、長くつきあっていく病気です(※2)

 原発性マクログロブリン血症の患者さんの死因は、診断された年齢によって異なります。 65歳未満で診断された場合は、原発性マクログロブリン血症の進行によって亡くなる人が多いのに対し、75歳以上で診断された場合は心臓病や脳血管疾患などで亡くなる人が圧倒的に多くなります。65~74歳は、心臓病や脳血管疾患などがん以外の要因と、原発性マクログロブリン血症の進行によるものがほぼ同程度です(※3)。

 原発性マクログロブリン血症の患者さんは、そうではない人に比べて感染症や呼吸器疾患、消化器疾患による死亡割合が高いとの報告(※3) もあります。症状があるときはもちろん、症状が出ていないときでも健康な人より免疫機能が低下した状態になっているので、人混みを避ける、マスクの着用、手洗いなど、日常的に感染症対策を強化することが大切です。

 不安や心配事、つらい症状、痛みなどがある場合は、我慢せずに担当医や看護師、薬剤師、医療ソーシャルワーカーなど身近な医療スタッフに話してみましょう。経済的なことや就労などについては、医療ソーシャルワーカーや病院の相談室、がん相談支援センターに相談するとよいでしょう(「原発性マクログロブリンの再発・再燃」参照)。病気と上手につきあいながら自分らしい生活が続けられるように、担当医をはじめ医療スタッフと相談しつつ、納得できる治療を受けることが重要です。
※1 Treon SP, et al. Blood. 2024; 143 (17): 1702– 1712.
※2「多発性骨髄腫の診療指針2024 第6版」 日本骨髄腫学会編、文光堂
※3 Br. J. Haematol. 2020 Jun;189(6):1107-1118.

臨床試験とは?

 新しい薬や治療法の人間に対する有効性や安全性について調べるために行われるのが「臨床試験」です。現在、使われている薬や標準治療は、国内外で臨床試験を重ねることで開発され、確立されたものです。

 臨床試験には、初期の安全性や薬物動態をみる「第Ⅰ相試験」、少数(多くは数十例) を対象に有効性と安全性をみる「第Ⅱ相試 験」、数百人を対象にすでに承認されている薬と新薬の候補、あるいは、標準治療と新治療の候補を比較して有効性と安全性をみる「第Ⅲ相試験」の3段階があります。

 臨床試験は医療の発展に不可欠であり、試験への参加は将来の患者さんを助けることになります。また、ある程度よいとわかっている薬や治療法が早く使える利点がある場合もありますが、予期せぬ副作用が出る危険性もあります。臨床試験への参加を検討するときには、試験の段階、目的と方法、利点やリスクをよく確認することが大切です。

形質転換とは?

 原発性マクログロブリン血症などの低悪性度のB細胞リンパ腫の細胞の一部が変化し、悪性度の高いびまん性大細胞型B細胞リンパ腫が発生することを形質転換と呼びます。原発性マクログロブリン血症の5~10%に形質転換が起こります。形質転換が生じた場合は予後が悪いとの報告もあるため、早急に、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の治療を行います。

参考資料

もっと知ってほしい原発性マクログロブリン血症のこと 2025年版, p.10-14

BOOKLET原発性マクログロブリン血症に関する冊子