卵巣がん検査
Q.どのような検査が行われ、卵巣がんだと確定されるのですか
A.卵巣がんは、良性腫瘍との鑑別が難しいため、開腹手術を行っておなかの中を詳しく観察し、摘出した腫瘍を顕微鏡で調べる病理検査をしたうえで診断が確定されます。
一般に卵巣がんが疑われるのは、卵巣に腫瘍がある場合です。がんの可能性を確認するために、医師による診察では腟から指を入れて子宮や卵巣、腟の状態を調べる「内診」や肛門から指を入れて直腸やその周囲の子宮、卵巣などの状態を調べる「直腸診」が行われます。
また、がんがあると増えるタンパク質(腫瘍マーカー。卵巣がんではCA125など)を調べる血液検査も行われます。さらに、超音波(エコー)検査、CT(コンピュータ断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像)検査などの画像診断で腫瘍の状態、周囲の臓器への広がり方や転移の有無なども調べます(図表3)。
卵巣腫瘍は多種多様で、しかも骨盤内の深いところにあるため、診察や検査だけでは、がんの診断および周囲の臓器への広がり方などを正確に判断することはできません。
開腹手術を行っておなかの状態を詳しく観察し、摘出した腫瘍の病理検査(永久標本病理検査)を実施して、卵巣がんの進行期と組織型が初めて確定されます。
一部の卵巣がんでは遺伝子検査が行われます。遺伝子には人によってDNA配列の塩基の種類や数などの違い(バリアント)があります。この違いが病気の発症や増悪に関連している場合、これを「病的バリアント」と呼びます。
卵巣がんの発症との関連が明らかになっているのはBRCA1/2遺伝子病的バリアント(コラム「◈遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)とリンチ症候群」)です。病状や家族歴からこの病的バリアントがあると疑われる場合には血液による遺伝子検査が実施されます。
また、近年、がんゲノム医療中核拠点病院・拠点病院・連携病院では、がんの組織を用いて数百種類の病的バリアントの有無を一度に調べる遺伝子パネル検査が行われています。
対象は標準治療がない、または進行がんで標準治療が終了となった患者さんです。高額で、BRCA1/2遺伝子以外の病的バリアントの存在など知りたくない情報もわかる可能性があることなどから事前のカウンセリングが大切です。
また、数個の塩基の短い繰り返し配列(マイクロサテライト)に異常がある場合(=マイクロサテライト不安定性)、免疫チェックポイント阻害薬が効くことがわかっています。卵巣がんの一部でもこのマイクロサテライト不安定性がみられるため、組織検査が実施されることもあります。
◈遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)とリンチ症候群
血液や組織で遺伝子異常を調べることも
卵巣がんの約15%には、BRCA1遺伝子やBRCA2遺伝子の病的バリアントが関連していることが知られています。
このBRCA1/2遺伝子の病的バリアントがあると卵巣がんや乳がん、すい臓がん、前立腺がんの発症確率が上がります。このようなBRCA1/2遺伝子の病的バリアントを伴う卵巣がんや乳がんを遺伝性乳がん卵巣がん(hereditary breast and ovarian cancer:HBOC)と呼びます。両親のいずれかにBRCA1/2遺伝子の病的バリアントがあると、性別にかかわらず子どもに遺伝する割合は50%です。
BRCA1遺伝子に病的バリアントがある場合、生涯で卵巣がんを発症する割合は40~60%、BRCA2遺伝子に病的バリアントがある場合は20%近くと見積もられています。HBOCであれば、片側の卵巣や卵管にがんを発症した場合、もう一方の卵巣や卵管、または乳房にもがんができるリスクがあります。
図表4の項目に該当する場合はHBOCの可能性が高いとされ、血液検査でBRCA1/2遺伝子の病的バリアントを調べることが推奨されています。この検査は保険適用される場合もありますが、がんを発症していないなど、一定の条件にあてはまらない場合は保険適用外になります。
また、術後、摘出した組織の遺伝子検査でHBOCが疑われることもあります。このようにHBOCの検査をどの段階で行うかは医師の考え方や医療機関によって異なっているのが現状です。
HBOCと診断され、すでに乳がんを発症している場合には、卵巣や卵管、健側の乳房を、卵巣がんを発症している場合は(両側の)乳房を予防的に切除するリスク低減手術が保険適用となります(乳がんあるいは卵巣がんを発症する前に予防的に卵巣や卵管、乳房を切除する場合は保険適用外です)。また、リスク低減手術を行わない場合には定期的に検診を行い、がんの早期発見・早期治療を目指します。
すでに卵巣がんや乳がんが進行している場合には、初回の治療からPARP阻害薬のオラパリブやニラパリブを使うことがあります。
また、HBOCとは別に、卵巣がんのリスクが高まる常染色体優性遺伝性のがんとして、リンチ症候群(遺伝性非ポリポーシス性大腸がん)があります。傷ついた遺伝子を修復するミスマッチ修復遺伝子の病的バリアントによるもので、性別にかかわらず、親から子に遺伝する確率は50%です。40代以下の若い年齢で大腸がんを発症するのが特徴で、子宮内膜がん(子宮体がん)や卵巣がんのほか、胃がん、肝臓や胆道のがん、腎臓がんなどのリスクも高まります。治療は各がんの標準治療に準じて行われます。
検査前に遺伝カウンセリングが行われる
HBOCやリンチ症候群では、がんが多発する可能性があるため、遺伝子の病的バリアントがあることを知ると、早期発見につながる半面、患者さんの心身にとって大きな負担になります。また、血縁者のがんのリスクも明らかになります。そこで、がんの診断や治療にあたっては、遺伝に関しての専門知識を持つ医師や遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングが行われます。原則として、初回の遺伝カウンセリングは、遺伝子検査を受けるかどうかを決めるために遺伝子検査の前に行われます。また、遺伝子検査を受ける受けないにかかわらず、患者さん本人の治療やその後の健康管理、家族の受診や健康管理についても話し合われます。遺伝カウンセリングを通じ、その後の各診療科や医療機関への紹介や調整も行われます。
参考資料
もっと知ってほしい卵巣がんのこと 2021年版,pp.6-7