胃がんの切除不能がん、再発がんの治療
Q.切除不能の進行胃がんと再発胃がんには、どんな治療が行われますか
A.切除不能の進行胃がんや再発胃がんの治療では、薬物療法が中心となります。遺伝子の特徴などを調べる4種類のバイオマーカー検査を同時に行い、それに基づいて薬を選択します。
切除不能、再発がんは薬物療法が中心
胃から離れたリンパ節、肝臓、腹膜、腹腔外の臓器への遠隔転移が認められるステージⅣの胃がんや、手術後に再発した胃がんの治療は薬物療法が中心となります。これらの場合、手術ですべてのがんを取り切ることが難しいためです。しかし、最新の薬物療法でも完全に治癒することは難しいため、治療の目標は「症状が現れるのを遅らせる」「症状を改善する」「生存期間をできるだけ延ばす」の3点に置かれます。
薬物療法で使われる薬は、殺細胞性抗がん薬、免疫チェックポイント阻害薬、分子標的薬に大別されます(図表19)。これらの薬を組み合わせた治療計画を「レジメン」と言い、1次薬物療法から2次、3次と続き、4次薬物療法以降まで推奨されています(図表20)。いずれのレジメンも有効性、安全性について科学的根拠のある標準治療です。
薬物療法にあたっては、まずHER2、PDL1発現量(指標としてはCPS値)、MSI/MMR、CLDN18という4種類のバイオマーカー検査を同時に行うことが推奨されており、その結果に基づいてレジメンが検討されます。
バイオマーカーとは、がん細胞や周囲の細胞に発現している特定のたんぱく質や遺伝子変化などの「がんの特徴」です。たとえば、PD-L1というたんぱく質の発現量が多いほど、免疫チェックポイント阻害薬の治療効果が高いことがわかっています。バイオマーカー検査によって個々の胃がんの性質を知ることで、最適な薬の選択が可能になります。
治療は1次薬物療法から始めて、2、3か月ごとに画像診断などで治療効果を判定します。効果が思わしくなかったり、副作用が強くて継続が難しい場合には、2次薬物療法へ移行します。効果が認められる場合は、原則として同じ治療を続けます。
1次薬物療法では、HER2陽性かつCPS値1以上の場合は、2つの殺細胞性抗がん薬(カペシタビン+オキサリプラチン、または 5-FU+シスプラチン)に分子標的薬のトラスツズマブと免疫チェックポイント阻害薬のペムブロリズマブを併用する4剤併用療法が推奨されます。
臨床試験では、従来の2つの殺細胞性抗がん薬+トラスツズマブのみに比べ、全生存期間や無増悪生存期間(がんが進行せず安定した状態にある期間)が延長していました。
HER2陽性でCPS値1未満では、従来と同じく2つの殺細胞性抗がん薬+トラスツズマブが標準治療です。
HER2陰性の患者さんについては、CLDN18の判定が重要になります。CLDN陰性であれば、殺細胞性抗がん薬に免疫チェックポイント阻害薬のニボルマブもしくはペムブロリズマブが併用されます。ニボルマブとペムブロリズマブのどちらがよいかは、現時点では不明です。
一方、CLDN陽性であれば、それらのレジメンに加えて、分子標的薬のゾルベツキシマブの併用を選択することも可能です。ゾルベツキシマブは切除不能進行・再発がんの治療薬として2024年に国内承認された薬です。その場合、ゾルベツキシマブがよいか、免疫チェックポイント阻害薬がよいかについては、 副作用やCPS値なども含めて担当医とよく相談しましょう。
2次薬物療法では、殺細胞性抗がん薬のパクリタキセル+分子標的薬のラムシルマブが推奨されます。MSI判定が「High」で、1次薬物療法で免疫チェックポイント阻害薬を 使用していない場合は、ペムブロリズマブ単独療法が推奨されます。進行・再発がんの患者さんのうち、MSI「High」は3~5%とされています。
3次薬物療法では、ふたたびHER2の陽性/陰性によって治療法が分かれます。陽性の場合、殺細胞性抗がん薬よりも生存期間の延長が確認されている抗体薬物複合体のトラスツズマブ・デルクステカンが推奨されます。陰性の場合、図表20の3薬の中から選択されますが、このうちニボルマブは1次、2次の治療で免疫チェックポイント阻害薬を使用していない場合に限って推奨されます。
患者さんの条件(年齢、基礎疾患、臓器機能など)や、入院・通院にかかる負担、副作用に対する本人の希望などによっては「推奨されるレジメン」が難しい場合があります。その際には「条件付きで推奨されるレジメン」(図表21)から選択されることもあります。
初回の診断時に切除不能と診断された胃がんでも、薬物療法が奏効して根治的な外科手術が可能になる場合があります。これをコンバージョン手術といいます。コンバージョン手術の有効性については現在、臨床試験で検討されています。手術を受けるかどうかは、担当医と十分に相談して決めてください。
切除不能がんや再発がんでは、症状の緩和や生活の質の改善、生存期間の延長を目的として緩和手術が行われることがあります。たとえば、がんが胃の出口にできて食べ物が通過できず、食事がとれなくなった場合は、胃と小腸をつなぐバイパス手術を行います。また、がんからの出血が多い場合は、止血のために胃切除を行うことがあります。
また、効果が期待できる薬剤が少なくなった患者さんには、開発中の新薬の有効性や安全性を調べるための治験(臨床試験、「胃がんのケア」ページ参照)に参加するという選択肢もあります。
胃がんの薬物療法は着実に進歩しており、新しい治療法の開発も続いています。遺伝子パネル検査(下記コラム)を受けるという方法もあります。あきらめずに自分に合った治療法を探していきましょう。
がんゲノム医療とは?
患者さんから採取したがん組織や血液を用いて、がんの発症に関係している遺伝子の異常(変異)を調べ、治療に役立てることを「がんゲノム医療」といいます。次世代シークエンサーと呼ばれる解析装置で数百種類の遺伝子を同時に調べるのが「がん遺伝子パネル検査」です。
この検査は標準治療が終了した患者さんが対象で、がんゲノム医療中核拠点病院、拠点病院、連携病院でのみ受けることができます。検査の結果、効果が期待される薬物療法(臨床試験を含む)が見つかる患者さんの割合は約10%程度とされています。
参考資料
もっと知ってほしい胃がんのこと 2026年版,p.18-20


