大腸がんの内視鏡治療
Q.大腸がんの内視鏡治療について教えてください
A.内視鏡治療では、お腹に傷をつけることなく、大腸内視鏡を用いてがんを切り取ることが可能です。ごく早期の大腸がんであれば、内視鏡治療で完治が可能です。
切り取ったがんの病理所見により、追加の手術がすすめられる場合もあります。
内視鏡治療には、なんといっても手術と違ってお腹に傷がつかないという利点があります。身体への負担が少なく、外来あるいは短期間の入院で行える治療法です。また、大腸の粘膜には痛みを感じる神経がないため、内視鏡治療では、がんの切除によって痛みを感じることはありません。
●内視鏡治療の対象
内視鏡治療に適している大腸がんは、一般的に次のような条件に当てはまるものです。
・がんが粘膜内にとどまっている、または粘膜下層の浅い部分までにとどまっていると予想されるもの
・無理なく1回で切除できる大きさのもの
●内視鏡治療の方法
肛門から大腸内視鏡を挿入し、内視鏡の先端の穴から専用の器具を出してがんを切り取ります。切除の方法には、茎のある形のがんを切除する「ポリペクトミー」、平たい形のがんを切除する「内視鏡的粘膜切除術(EMR)」、「内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)」の3つの方法があります(図表7)。
ESDは、ナイフ状の内視鏡用電気メスでがんの周りの粘膜をぐるりと切ってがんの部分をはがし取っていく、新しい内視鏡治療の技術です。従来のEMRで切除できるものより大きながんでもきれいに一括切除できるという利点があります。2012年4月に保険収載となりましたが、高い技術を要するため一部の専門施設でのみ行われています。
●内視鏡治療の合併症
まれに出血や腸管穿孔(腸に穴が開くこと)などが起こることがありますが、その頻度はいずれも約1%です。合併症が起こった場合は、入院が長くなることや、まれに手術が必要となることもあります。
●内視鏡治療後に手術が必要になる場合
内視鏡治療の後は、切り取ったがん組織を顕微鏡でよく調べます(病理検査)。その結果、がんが粘膜内や粘膜下層のごく浅いところまでにとどまっていて、きれいに取り切れていれば、そのまま経過観察となります。
一方で、がんを切除した切り口(断端)にがんが露出している場合や、がんが粘膜下層の深部まで達している場合、血管やリンパ管にがん細胞が入り込んでいる場合などは、リンパ節転移の可能性が約10%程度あるため、追加手術(腸管切除+リンパ節郭清)がすすめられます(大腸がんの手術法)。ただし、病理検査の結果によって、リンパ節転移の可能性の程度は異なります。
これに加え、患者さんご自身の考え、年齢、身体の状態(普段の活動や持病)などを総合的に評価し、手術を行うかどうかを決定することになります。担当医とよく相談してください。
内視鏡治療を受ける際の注意点
●事前に、常用薬(ふだん飲んでいる薬)を担当医にきちんと伝えてください。とくに抗凝固薬(血液をサラサラにする薬)を服用している方は、必ず申し出てください。「おくすり手帳」など薬の名前がわかるものを持参するのが最善です。
●内視鏡治療の後はいくつかの制限があります。しばらく(1~2週間程度が一般的)は、海外出張や旅行は控えてください。また、激しい運動も約1週間は避けることが望ましいです。
参考資料
もっと知ってほしい大腸がんのこと 2022年版,pp.10-11