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乳がんの手術法と乳房再建

Q. どのような手術法がありますか、また、乳房再建について教えてください

A.乳がんの標準的な手術法には、乳房を残す乳房部分切除術と、乳房を全部切除する乳房全切除術があります。手術を受ける前に、乳房再建を希望するかどうかも考えておく必要があります。

乳房部分切除術と乳房全切除術

 乳がんの手術の目的は、①局所のがんを取り除く、②手術で切除した病変を病理検査で詳しく調べ、その結果からがんの性質を確定診断することです。標準的な手術法は、乳房部分切除術あるいは乳房全切除術です。

 乳房部分切除術は乳房を残して、病変とその周辺を部分的に取り除く方法、乳房全切除術は、大胸筋や小胸筋といった胸の筋肉を残して、乳房をすべて切除する手術法です。乳房部分切除術と放射線療法を組み合わせた乳房温存療法は、乳房全切除術と同等の治療成績が得られることがわかっています。

 乳房部分切除術の対象になるかどうかは、腫瘍と乳房の大きさのバランスによって決まります。日本では、腫瘍の大きさ3㎝以下が乳房部分切除術の目安です。腫瘍が大きい場合で乳房部分切除術を希望する人は術前に薬物療法を受けて腫瘍が縮小すれば、乳房部分切除術の対象になります。ただ、腫瘍と乳房のバランスで、乳房部分切除術を受けても、乳房が変形してしまうなど、満足のいく結果が得られない場合があります。どちらの手術を受けるかを選べるときには、担当医に術後の乳房のイメージを見せてもらい検討しましょう。

 なお、次の①~③に当てはまるときと、本人が乳房温存を希望しないときには乳房部分切除術の適応にはなりません。
①2つ以上のがんのしこりが同じ側の乳房の離れた場所にある、
②乳がんが広範囲にわたって広がっている、
③放射線療法を行う体位が取れない、妊娠中などの理由で、放射線療法が行えない。

センチネルリンパ節生検とは

 どちらの手術法を受ける場合でも、術前に腋窩リンパ節に明らかに転移があると診断されたときには、現時点ではリンパ節を郭清(切除)するのが標準治療です。

 リンパ節を郭清する目的は、腋窩リンパ節転移の個数や大きさを調べるため、そして、再発を防ぐためです。

 触診や画像診断などで、腋窩リンパ節への転移がなさそうだと診断されているときには、手術中、あるいは術前の検査として、必要に応じてセンチネルリンパ節生検を行い、そこで転移の有無を顕微鏡で調べます(図表6)

 センチネルリンパ節は、腋窩リンパ節の中で最初にがん細胞がたどり着く場所であり、見張りリンパ節とも呼ばれます。センチネルリンパ節に転移がなければ、そのほかのリンパ節に転移がある危険性が低いので、腋窩リンパ節郭清を省略できます。最近の研究では、センチネルリンパ節への転移が2㎜以下と微小であれば、郭清してもしなくても予後に影響はないとの結果が出ており、微小転移なら腋窩リンパ節郭清を行わないのが標準治療です。また、2㎜超のマクロ転移でも一定の条件(①センチネルリンパ節への転移が2個以下、②乳房のしこりの大きさが5㎝未満、③術後に腋窩を含む放射線照射を施行、④術後薬物療法を施行など)を満たす場合には、腋窩リンパ節郭清の省略が可能です。

センチネルリンパ節の位置

乳房の皮膚を残す「皮下乳腺全摘術」

 皮下乳腺全摘術は、乳房の皮膚を残して乳腺をすべて切除する手術法です。この手術法の利点は、皮膚を温存することで、がんの手術と同時にエキスパンダーを入れる一次再建が比較的簡単に仕上がりよくできることです。対象は、腫瘍が小さい人、病変が広範囲な非浸潤がんの人です。

 この方法には、乳頭・乳輪を残す方法と切除する手術法があります。乳頭・乳輪を切除すれば従来の乳房全切除術とほぼ同じ治療成績が期待できます。

 乳頭・乳輪を温存する場合と切除する場合とでは再発率などの差が証明されていないため、乳頭壊死や乳房内再発のリスクを知ったうえで温存するかどうか考えたほうがよいでしょう。

保険診療で乳房再建も

 乳房再建とは、手術で失われたり変形したりした乳房を形成外科的な技術で再建する方法です。乳がんの手術を受ける前に、乳房再建についても医師の説明を聞き、検討することが重要です。乳がんの手術と同時に再建する方法もありますし、乳房再建を希望するかどうかで、乳がんの手術法の選択が変わってくる場合があるからです。乳房部分切除術が可能な程度の大きさの腫瘍でも、乳房部分切除術ではなく、乳房全切除術あるいは皮下乳腺全摘術と再建手術を組み合わせたほうが満足感は高いケースもあります。

 乳房再建によって再発が増えたり、再発の発見が遅れたりすることはありません。再建には、がんの手術と同時に行う一次再建と時間をおいて行う二次再建があります。一次再建はがんの切除と同時に行うので、乳房を失う精神的なダメージが少なく、入院が1度で済みます。時間をかけて再建方法を選びたいときや、一次再建を実施していない病院で治療を受けるとき、がんの広がり方などによっては二次再建が適している場合もあります。

 再建手術の方法には、患者さん本人の組織(自家組織)を胸に移植する方法と人工乳房(インプラント、p.10写真)を使う方法があります。自家組織による再建も、腹部の筋肉、脂肪、皮膚などを移植する「腹直筋皮弁法」(図表7)、腹部やおしりなどの脂肪組織を血管がついた状態で移植する「穿通枝皮弁法」、背中の筋肉などを移植する「広背筋皮弁法」(図表8)の3種類に分けられます。穿通枝皮弁法は、筋肉を採取しないためダメージが少ないものの手技が難しく、今のところ一部の医療機関でしか行えないのが難点です。

腹直筋皮弁法

 人工乳房による再建(図表9)では、風船状のエキスパンダー(写真)を胸の筋肉の下に入れ生理食塩水を使って皮膚を伸ばしたあと、人工乳房を挿入します。いずれの再建法でも、乳輪・乳頭の再建は再建乳房の形が安定してから行います。必要なときだけ皮膚に接着する人工乳房や人工ニップル(つけ乳首)もあります。

 自家組織を使う場合、自分の組織なのでやわらかく自然な仕上がりになりますが、腹部や背中など、組織を取った部分に傷が残ります。

乳房再建

 人工乳房を使う場合は新たな傷ができない半面、再建していない側の乳房が下垂するとバランスが悪くなる可能性があります。乳房再建は乳がんでの乳房切除後や皮下乳腺全摘術後に、日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会の認定施設※で所定の研修を受けた認定医による再建を受けた場合に限って保険診療の対象となります。よく比較検討して、自分に合った再建手術を選ぶことが大切です。

※認定施設は学会ホームページ(http://jopbs.umin.jp/)を参照。

参考資料

もっと知ってほしい乳がんのこと 2023年版,p.8-10

公開日:2022年1月21日 最終更新日:2023年12月21日

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