慢性骨髄性白血病の治療
Q.慢性骨髄性白血病ではどのような治療が行われるのですか
A.分子標的薬のチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)で血液中の白血病細胞を減らし、 「深い分子遺伝学的寛解(DMR)」を目指します。
どの薬を使うかは、患者の年齢、ライフスタイル、合併疾患、 服用している薬などによって担当医と相談しながら選択します。
CMLは薬物療法(主に飲み薬)で治療します。その方法は日本血液学会が作成する「造血器腫瘍診療ガイドライン」によって標準化されています(図表8)。標準治療は国内外の臨床試験の結果をもとに科学的に検証され、現時点で最も効果と安全性の高い治療法です。
◆慢性期の薬物療法
まずは、BCR::ABL1たんぱく質をターゲットにした分子標的薬のチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)を内服し、体内の白血病細胞を限りなくゼロに近づけることを目指します。
BCR::ABL1たんぱく質にはエネルギーとなるATP(アデノシン三リン酸)を受け取るポケットのような鍵穴があり、そこにATPが結合すると、白血病細胞を増やすよ うに指令を送ります。TKI は、このBCR:: ABL1たんぱく質の鍵穴に入るように設計された内服薬で、BCR::ABL1たんぱく質と結合することでATPが鍵穴に入り込むのを阻 害し、白血病細胞を死滅させます(図表7)。
CMLの治療に用いられるTKIには、第1世代のイマチニブ(商品名・グリベックほか)、第2世代のニロチニブ(商品名・タシグナ)、ダサチニブ(商品名・スプリセルほか)、ボスチニブ(商品名・ボシュリフ)、第3世代のポナチニブ(商品名・アイクルシグ)、アシミニブ(商品名・セムブリックス)があります。
最初に使う薬は、標準的には第2世代のニロチニブ、ダサチニブ、ボスチニブの中から選択します。第1世代のイマチニブよりも、第2世代の薬で治療する方が効果が高いことがわかっているからです。特に、初診時の年齢、脾腫(肋骨弓下㎝)、血小板数、末梢血中の芽球(白血病細胞)の割合から算出されるSokalスコアなどで「高リスク」とされた場合には、第2世代のTKIで治療し、進行を防ぐことが大切です。
起こりやすい副作用は薬によって異なるため、どの薬を最初に使うかは、患者さんの年齢や体質、合併疾患、生活スタイルなどによって、担当医と相談しながら決定します。
たとえば、ニロチニブを内服すると血糖値が上がりやすいので、糖尿病や心血管疾患のリスクがある人は、ダサチニブかボスチニブのどちらかを服用します。慢性閉塞性肺疾患(COPD)など肺に病気がある人にはニロチニブかボスチニブ、肝機能障害や胃腸障害を起こしやすい人には、ニロチニブかダサチニブがすすめられます。
それぞれ服用のしかたが異なり、ダサチニブとボスチニブは1日1回食後、ニロチニブは食事の1時間以上前または食後2時間以降に1日2回に服用します。1日2回の服用では飲み忘れが多くなる可能性がある場合にはダサチニブかボスチニブを選択します。
CML治療薬の先発品は高額であるため、経済的なことを考え、安価なジェネリック医薬品(後発医薬品)のあるイマチニブやダサチニブが選択されることもあります。今後はほかの第2世代薬のジェネリック医薬品も承認されていくと予想されています。
TKIによる治療では副作用のコントロールが重要です。重篤な副作用が出ているときは薬の量を減らしたり、休薬を検討したり、別のTKIに切り替えたりします。なお、グレープフルーツジュースはTKIの代謝に悪影響を及ぼすため、TKI服用中は控えましょう。
◆効果判定と薬の継続・変更
最初の薬を服用し始めてから3カ月後には血液検査で採取した末梢血中のBCR::ABL1遺伝子の量を測定し、ヨーロッパ白血病ネットワーク(ELN)基準に基づく治療効果の判定を実施します(図表9)。
薬がよく効いて白血病細胞が減少し、「至適奏効」(BCR::ABL1遺伝子が10%以下) を達成しているときには同じ薬による治療を継続します。効き目が悪いときには薬を増量することもあります。飲み忘れが多いと効果は出ないため、忘れにくい時間帯に薬を飲む習慣をつけることが大切です(「TKIは飲み忘れが多いと効果が出ない」、図表10)。
3カ月経っても白血病細胞が1兆個以上のまま、あるいは、BCR::ABL1遺伝子が10% を超えている場合には、1つ目の治療とは異なる第2世代の薬か、第3世代のポナチニブのいずれかに切り替えます。ポナチニブは、1日1回食後に服用する薬です。
治療薬の投与中には、さまざまな遺伝子変異が生じてBCR::ABL1たんぱく質の鍵穴の形が変形し、TKIが効きにくくなることがあります。T315I遺伝子変異が生じているときには、ポナチニブによる治療を行います。他の変異については、ニロチニブ、ダサチニブ、ボスチニブ、ポナチニブの中から、効果がある可能性が高いものを選択します。
薬の効果判定は3カ月後、6カ月後、12カ月後、あるいは必要に応じて行います。服用を始めて12カ月後には、BCR::ABL1遺伝子が0.1%以下、白血病細胞が10億個以 下になる「分子遺伝学的大寛解(MMR)」、その後は白血病細胞が0に近づく「深い分子遺伝学的寛解(DMR)」を目指します(「治療効果を示す4段階の寛解」、図表11)。
2つ目の薬でも効果が得られず「不成功」 となったときには、アシミニブによる治療を選択します。アシミニブは1日2回、空腹時に服用する薬です。ほかの5つのTKIとは異なる鍵穴「ABLミリストイルポケット」を標的にした薬で、ほかのTKIが効きにくい、 あるいは効かなくなったCMLにも高い効果を発揮することが報告されています。
TKIは飲み忘れが多いと効果が出ない
TKIは、非常に効果の高い治療薬ですが、飲み忘れが多いと効果が発揮できません。英国の研究では、月に4回以上イマチニブを飲み忘れた人は白血病細胞が減少しにくく、治療の効果が出なかったことがわかっています(図表10)。食事の1時間前か2時間後に服用した方がよい薬もあるなど、最適な服用時間は薬によって異なります。朝食後や夕食の前か後、入浴後、あるいは犬の散歩の後など、自分の生活の中でTKIの服用を習慣づけましょう。自宅外で仕事をしている人は職場にも薬を置いておいて、飲み忘れを防ぐのも1つの方法です。
◆慢性期の薬物療法
80歳以上の場合、または、合併疾患などのために強い副作用が出る可能性がある薬を避けたい場合には、比較的副作用がマイルドなイマチニブや低用量のダサチニブなどによる治療を検討します。イマチニブとダサチニブは1日1回食後に内服します。
低用量ダサチニブ療法では、1日の服用量を標準量(100㎎)の5分の1の20㎎から開始し、3カ月ごとに効果判定を行います。効果があればそのまま継続し、効果がやや足りないときには20mgずつ増量します。国内で70歳以上のCML患者52人を対象に実施された臨床試験では、5分の1の超低用量のダサチニブ投与でも1年後に60%の患者さんが「分子遺伝学的大寛解(MMR)」を達成しました。標準量を服用したときより、重篤な副作用が減ることも期待できます。
高齢者の場合は、このような低用量のTKIの内服も選択肢になります。薬の種類や投与量は、個々の患者さんの病状や状態によって判断されていますので、自己判断での減薬は絶対にやめましょう。
臨床試験とは?
新しい薬や治療法の人間に対する有効性や安全性について調べるために行われるのが「臨床試験」です。現在、使われている薬や標準治療は、国内外で臨床試験を重ねることで開発され、確立されたものです。
臨床試験には、初期の安全性や薬物動態をみる「第Ⅰ相試験」、少数(多くは数十例)を対象に有効性と安全性をみる「第Ⅱ相試験」、数百人を対象にすでに承認されている薬と新薬の候補、あるいは、標準治療と新治療の候補を比較して有効性と安全性をみる「第Ⅲ相試験」の3段階があります。
臨床試験は医療の発展に不可欠であり、試験への参加は将来の患者さんを助けることになります。また、ある程度よいとわかっている薬や治療法が早く使える利点がある場合もありますが、予期せぬ副作用が出る危険性もあります。臨床試験への参加を検討するときには、試験の段階、目的と方法、 利点やリスクをよく確認することが大切です。
◆移行期・急性転化期の治療
基本的には慢性期と同じように、第2世代以降のTKIで治療します。診断時に移行期か急性転化期だった場合には、まずは第2世代の3つのTKIのいずれかを内服します。どの薬を選ぶかは、慢性期と同様、患者さんの年齢、合併疾患などから判断します。
TKI服用中に移行期・急性転化期に進行した場合には、その前に服用していた薬とは別の第2世代のTKI、またはポナチニブに切り替えます。すでに2剤使っている場合にはアシミニブも選択肢です。移行期・急性転化期では標準より服用量を増やす場合もあります。
CMLでは、リンパ性あるいは骨髄性の急性転化が生じることがあります。リンパ性の急性転化では急性リンパ性白血病、骨髄性の急性転化では急性骨髄性白血病に準じた多剤併用の抗がん剤治療も選択肢となります。多剤併用抗がん剤治療が奏効し、白血病細胞の減少がみられたときには、同種造血幹細胞移植の実施を検討します。
すべてのTKIが奏効せず同種造血幹細胞移植が難しい場合には、内服の抗がん剤のヒドロキシカルバミド(商品名・ハイドレア)、注射薬のインターフェロンα(商品名・スミフェロン注)などで治療することもあります。
治療を示す4段階の寛解
CMLと診断されたときには体の中に、1兆個以上の白血病細胞が存在しています。薬が効いて白血病細胞が少なくなり、病状がコントロールされた状態を「寛解」といいます。CMLの寛解には4つの段階があります。
TKI治療で白血病細胞が減り始め、顕微鏡で白血病細胞が見えない状態になった段階は「血液学的完全寛解(CHR)」です。さらに白血病細胞が減って100億個以下になり、フィラデルフィア染色体が見えない状態になった状態が「細胞遺伝学的完全寛解(CCyR)」、白血病細胞が10億個以下になった状態が「分子遺伝学的大寛解(MMR)」です。国際的には、BCR::ABL1mRNA比が0.01%以下(MR4.0) になったら「深い分子遺伝学的寛解 (DMR)」ですが、日本の「造血器腫瘍診療ガイドライン」では0.0032% 以下(MR4.5)をDMRと定義しています(MRはPCR検査で評価したBCR:: ABL1遺伝子発現量)。CMLの治療では、DMRの長期間維持を目指します。
CMLの治療と妊娠・出産
女性の場合は、TKI服用中に妊娠・出産すると流産や死産、胎児に異常が出るリスクが高まりますので、避妊をすることが重要です。「深い分子遺伝学的寛解(DMR)」になって1~2年後にTKIを断薬し、2~3カ月経てばTKIの影響はなくなるため、妊娠しても胎児への影響はほとんどないとされます。年齢的な猶予がないときには、慎重に経過をみながら胎児への影響 が少ないインターフェロンαによる治療に切り替えて妊娠・出産し、その後TKI治療を再開する方法を取ることもあります。
近年、CMLの治療後、あるいは治療中に妊娠・出産する女性が増えています。適切なタイミングは病状や患者の年齢によっても異なりますので、妊娠・出産を希望している場合には、担当医に相談しましょう。
なお、患者が男性の場合は、TKIの服用中にパートナーが妊娠・出産しても、胎児に影響が出ることはほとんどないとされています。
参考資料
もっと知ってほしい慢性骨髄性白血病のこと 2023年版, p.8-13


