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遠隔転移のない前立腺がんの薬物療法

Q.遠隔転移のない前立腺がんにはどのような薬物療法が行われますか

A. 遠隔転移のない前立腺がんで、根治が可能と判断された場合は、手術や放射線療法を行い、再発した場合は薬物療法を追加します。
高齢や持病により手術や放射線療法が適さない場合は薬物療法を行います。


 根治を目指して手術や放射線療法を行っても、画像では確認できないほど小さながん細胞が残っていることがあります。それが時間の経過とともに増えてくる状態を「再発」といいます。再発した場合には、薬物療法を行います。

 初発時あるいは再発時に薬物療法を行ったにもかかわらず、PSA値の上昇や画像診断でがんが大きくなっているような状態が「再燃」です。再燃時には、男性ホルモンが極めて少ない状態であっても、がんが増殖する性質を獲得しています。

 がんが前立腺から離れたリンパ節、臓器、骨で見つかる状態が「遠隔転移」です。遠隔転移は、初発時に見つかる場合と、手術や放射線療法が終わった後に見つかる場合(再発)、あるいは薬物療法が終わった後に見つかる場合(再燃)があります。

PSA検査は治療後も継続する

 初発時の治療のフォローアップとして、また、再発や再燃、遠隔転移を早期に発見するために、図表15のような検査が必要に応じて行われます。

 中でも重要視されるのがPSA値です。再発の兆候は、まずPSA値の上昇として現れるからです(PSA再発=生化学的再発)。

 手術後2~4週間ごとにPSA値を測定し、術後1か月以上経って0.2ng/mLを上回った場合、またはその後の測定で2回連続して0.2ng/mLを上回った場合には再発とみなされます。放射線療法による根治治療を行った場合は、照射後にPSA値が2ng/mL以上上がった場合に再発を疑います。ただし、放射線療法後は一時的にPSA値が上昇することが知られており、何回かの測定が行われます。ホルモン療法後の再燃の目安は最低値から25%以上かつ2ng/mL以上上昇した場合です。直腸診やMRI検査、CT
検査で腫瘍が確認された場合(臨床的再発)は、かなり進行していると考えられます。

再発や転移について調べる検査

遠隔転移の有無とホルモン療法の効き具合で治療が異なる

 前立腺がんは、「遠隔転移の有無」と「ホルモン療法の効果の有無(男性ホルモンが極めて少ない状態に保たれ、がんが落ち着いているホルモン療法感受性か、ホルモン療法を行っているにもかかわらず、がんが増殖するホルモン療法抵抗性か)」の2つのポイントによって治療が異なります(図表16)。自分のがんの状態を把握しておくことが大切です。

【①遠隔転移のないホルモン療法感受性前立腺がん】
 遠隔転移は確認されず、男性ホルモンが極めて少ない状態にすることでがんの抑制が期待できます。手術や放射線療法後に再発した場合でも同様の状態であれば①に含まれます。

【②遠隔転移のないホルモン療法抵抗性前立腺がん】
 男性ホルモンが極めて少ない状態を維持しているにもかかわらず、再燃が確認されますが、遠隔転移は確認されていない状態です。すでに何らかの治療を行っている中で、がんがホルモン療法抵抗性を獲得し始めたといえます。遠隔転移のないホルモン療法感受性前立腺がんに対してホルモン療法を行った後にPSA値が再上昇した場合が典型例です。

【③遠隔転移のあるホルモン療法感受性前立腺がん】
 遠隔転移はありますが、男性ホルモンが極めて少ない状態にすることでがんの抑制が期待できます。初発時から遠隔転移がある場合、手術や放射線療法後に遠隔転移が確認された場合などが含まれます。

【④遠隔転移のあるホルモン療法抵抗性前立腺がん】
 男性ホルモンが極めて少ない状態を維持しているにもかかわらず再燃し、かつ遠隔転移が確認された状態です。遠隔転移のあるホルモン療法感受性前立腺がんに対してホルモン療法を行った後にPSA値が再上昇した場合が典型例です。

 遠隔転移のない前立腺がんには①と②が含まれ、薬物療法を行う場合は以下に記載するホルモン療法が選択されます。
前立腺がんの状態

ホルモン療法の種類

 前立腺がんは、主に精巣や副腎から分泌される男性ホルモン(アンドロゲン)の作用で進行する性質があります。

 通常、アンドロゲンは、以下のプロセスで分泌されます。まず、脳の視床下部からLHRH[黄体形成ホルモン放出ホルモン。GnRH(ゴナドロピン放出ホルモン)とも呼ばれる、男性ホルモンを作る指令ホルモン]という指令が出されると、それが下垂体に伝わり、さらにLH(黄体形成ホルモン)という指令が放出されます。このLHが精巣に届くことで、アンロドゲンが分泌される仕組みです。

 このようなアンドロゲンの分泌や働きを、さまざまなプロセスにおいて抑制するのがホルモン療法です。実際の治療ではアンドロゲン遮断療法(ADT)を基本とし、患者さんの状態や病気の進行に応じて、旧来の抗アンドロゲン薬、アンドロゲン受容体シグナル阻害薬(ARSI)などを併用します。

【ADT】
 ADTは、精巣からのアンドロゲン分泌を遮断する治療です。男性ホルモンの分泌は、手術で精巣を摘出することによっても抑えられますが、現在は薬を用いるのが一般的で、LHRHアゴニストやLHRHアンタゴニストといった注射薬が主に使われます。どちらも脳の下垂体に働きかけて精巣からのアンドロゲンの分泌を抑える薬で、ホルモン療法の中心として使われています。LHRHアンタゴニストは、LHRHアゴニストに比べて効果が速く出るという特徴があります。

 ADTだけでは効果が不十分な場合や病気が進行した場合は、ADTとは異なる作用の薬を組み合わせて治療を行います。

【旧来の抗アンドロゲン薬】
 細胞の核の中に働きかけてアンドロゲンの働きを抑制する薬です。体の中にアンドロゲンがあっても、その働きががん細胞に伝わりにくくなります。主にADTと組み合わせて使われます。

【ARSI】
 新規抗アンドロゲン薬とアンドロゲン合成阻害薬が含まれます。新規抗アンドロゲン薬は、旧来の抗アンドロゲン薬とは異なる仕組みで、旧来の抗アンドロゲン薬よりも強力にアンドロゲンの作用を抑える薬です。アンドロゲン合成阻害薬は、精巣だけでなく、副腎や前⽴腺、また前⽴腺がん細胞でアンドロゲンが作られるのを阻害し、アンドロゲンそのものを減らす薬です。通常は副腎⽪質ホルモン(ステロイド)と⼀緒に使⽤します。

 各薬剤の主な副作用については、Q9(「薬物療法の副作用」参照)で説明します。

手術または放射線療法後に再発した場合の治療

 手術(初回治療)後、PSA再発や前立腺の中で臨床的再発がみられる場合は、 ①遠隔転移のないホルモン療法感受性前立腺がんの状態です(図表16)。通常は放射線療法が行われます(救済放射線療法)が、その効果が期待しにくい場合やPSA値が下がらない場合には、放射線療法と併用してホルモン療法(主にADT)が行われます。

 放射線療法(初回治療)後に再発した場合は、一般にはホルモン療法(主にADT)が行われます。それまでの治療や再発の状況によっては、前立腺全摘除術、放射線の組織内照射、フォーカルセラピー(「前立腺がんの治療」コラム参照)、経過観察などの選択肢も検討されます。

再発後、ホルモン療法(主にADT)による治療中に再燃した場合の治療

 再燃したものの、遠隔転移が確認されない場合は、②遠隔転移のないホルモン療法抵抗性前立腺がんの状態です(図表16)。ADTを継続し、病状に応じてほかの薬との併用を検討します。

 治療を決める際は、がんの進行スピードが目安となります(図表17)。進行スピードが速く、PSA2ng/mL以上の場合は転移する可能性が高いため、ADTとARSIを併用する治療が行われます。一方、進行スピードが遅い場合は、ADTを継続して慎重に経過観察を続けることも選択肢となります。

 最終的には全身の状態、効果と副作用のバランスなどを含めて総合的に判断します。
遠隔転移のないホルモン療法抵抗性前立腺がんの治療

遺伝性のがんと遺伝カウンセリング

 がんの多くは加齢や生活習慣などが重なって起こりますが、一部には生まれつき特定の遺伝子に変化があり、がんになりやすい「遺伝性のがん」があります。これは親から子へ受け継がれる可能性がある点が特徴です。

 前立腺がんの多くは遺伝によるものではありませんが、一部には生まれつきの遺伝子の変化が関係するタイプがあります。代表的な遺伝子にBRCA 遺伝子があります。これらの遺伝子変化を生まれつき持つ人は、持たない人に比べて前立腺がんを発症しやすい場合があります。

 また、遺伝子の傷を修復する機能が働かず、傷が蓄積した状態(マイクロサテライト不安定性が高い、MSI-High)と診断された場合は、その背景に遺伝性の要因(リンチ症候群:生まれつき遺伝子の修復機能が弱く、大腸、子宮、胃、前立腺など、さまざまながんを発症しやすい体質を示す病気)が隠れている可能性があります。

 このような遺伝子の変化がある場合の治療として、例えばBRCA遺伝子に変化がある前立腺がんでは、PARP阻害薬という薬が使われることがあります。

 以上の遺伝的な背景を整理し、今後の対応について一緒に考えるのが遺伝カウンセリングです。このカウンセリングでは、遺伝子検査の目的や限界、結果がご本人やご家族に与える影響について専門家がわかりやすく説明します。遺伝子検査を受けるかどうかは、十分な説明を受けたうえでご自身が決めることができます。遺伝性のがんを正しく知ることは、治療だけでなく、将来や家族のことを考えるうえでも大切な一歩です。

参考資料

もっと知ってほしい前立腺がんのこと 2026年版, p.17-20

公開日:2026年10月29日 最終更新日:2026年10月29日

BOOKLET遠隔転移のない前立腺がんの薬物療法に関する冊子