前立腺がんの治療
Q.前立腺がんではどのような治療が行われますか
A. 手術療法・放射線療法・薬物療法(ホルモン療法)のほかに、特別な治療をせずに経過をみる監視療法もあります。
根治が可能と判断された場合は、主に手術療法か放射線療法が行われる
前立腺がんの治療方法は、前述のTNM分類、グリーソンスコア、PSA値、リスク分類のほか、年齢や合併症、年齢から推測される平均的な余命(この先、何年ぐらい生きられるかという予測)、病気に対する患者さんの考えなどを考慮して、慎重に選択しなければなりません。
手術療法(前立腺全摘除術)と放射線療法は、根治を目的とする治療法です。がんが前立腺の中にとどまっている場合は、この2つの方法が最も推奨されます(図表8)。
低リスクのがん(「前立腺がんの病期と悪性度」図表7参照)、具体的にはPSA値10ng/mL以下、グレードグループ分類1、すなわちグリーソンスコアが6以下で、TNM分類がT2a(がんが前立腺の左右どちらかの1/2までにとどまっている)までであれば、監視療法(待機療法)も選択肢の1つです。これは、特別な治療を行わず、PSA検査、直腸診、生検を定期的に実施しながら、経過を見守るというものです。
特にT1a(がんが前立腺肥大症などの手術で切除した組織の5%以下)では、監視療法が強く推奨されます。PSA検査が普及して、ごく早期のがんが見つかる例が増えたため、結果として監視療法の対象となる患者さんが多くなっているのが現状です。

今後が期待されるフォーカルセラピー
がんが前立腺の中にとどまっていて、再発のリスクが低いケースでは、フォーカルセラピー(前立腺をすべて治療するのではなく、がんがある部分だけを狙って行う局所療法)が行われることがあります。
これはできる限り正常な組織を温存して、がんを治療することを目標としており、経過を見守る監視療法と前立腺全摘除術や放射線療法のような根治を目指す治療との中間的な治療です。
この治療には、高密度焦点式超音波療法(HIFU)、凍結療法、マイクロ波焼灼・凝固療法、放射線の組織内照射(密封小線源治療、「前立腺がんの放射線療法」参照)、定位放射線治療(「前立腺がんの放射線療法」参照)などが含まれます。現時点で保険適応されているものもありますが、先進医療や自由診療で行われるものもあります。
高密度焦点式超音波療法は、体内で焦点を定めて高密度に超音波を照射することで、がん細胞を熱と衝撃で破壊する方法です。
凍結療法では、がんの部分に特殊な針を刺し、アルゴンガスや液体窒素を注入してがん細胞を凍結させます。その凍結が解けたときに再び凍結を行い、がん細胞を徐々に壊死させる方法です。
マイクロ波焼灼・凝固療法は、がんの部分に電極を刺し、電子レンジと同じ波長のマイクロ波を通電させ、がん細胞を熱で破壊する方法です。
現在のところ、高密度焦点式超音波療法とマイクロ波焼灼・凝固療法は先進医療として行われ、凍結療法は医師主導治験で検討中です。治療に関するデータの蓄積が十分ではないため、限られた場合に実施されます。
フォーカルセラピーの選択にあたっては、医師とよく話し合い、協働意思決定(シェアード・ディシジョン・メイキング)(「聞いておきたいこと、伝えておきたいこと」参照)することが重要です。
局所進行性のがんは状態に応じて治療を選択
がんが前立腺の被膜を超えてリンパ節や精嚢、膀胱、直腸、骨盤壁などに広がっているものの、前立腺から離れたリンパ節や臓器、骨などへの遠隔転移は認められない「局所進行性がん」では、がんの広がりの程度に応じて、手術、放射線療法、薬物療法を組み合わせた治療が行われます。
前立腺がんは、精巣や副腎から分泌される男性ホルモン(アンドロゲン)の作用で病気が進行する性質があります。したがって薬物療法では、男性ホルモンの分泌や働きを抑制する薬を投与するホルモン療法が中心となります(図表8) 。
ホルモン療法は、主に遠隔転移した前立腺がんに対して行われます。ただし、遠隔転移がない場合でも、年齢や体力などを考慮して手術や放射線療法による体への負担を避けたいときには、初回治療としてホルモン療法が選択されることがあります。また、手術や放射線療法を行った後にPSA値が再び上昇してきた場合にも、ホルモン療法が行われます。
遠隔転移がある場合は、ホルモン療法が中心となる
がんが遠隔転移している場合には、前述のようにホルモン療法が主体となります。
骨転移で痛みがある場合などには、緩和的に放射線治療が行われます。また、オリゴ転移(転移の数が少ない場合)には、遠隔転移があっても治癒を目指した放射線治療が行われることがあります。
排尿日誌(尿の記録)で症状の変化を把握
前立腺がんの治療では、排尿に関する症状が治療後に変化することがあります。治療前後の尿の出方、回数、もれの有無などを記録することで、症状の変化を医療者と一緒に正しく把握しやすくなります。この記録を「排尿日誌」といいます。
日誌の記載が推奨されるのは、前立腺がんの手術や放射線療法、あるいはがん自体が原因で、尿の出方や回数が気になる患者さんです。目的は、日々の排尿パターンや困っている症状を具体的に把握して、治療後の回復や改善の過程を確認すること、そして医療者との相談に役立てることです。
日誌には、1日の排尿回数、尿量、夜間のトイレ回数、尿もれや切れの悪さ、尿意切迫感などを毎日簡単に書き留めます。水分摂取量や日中の活動も併せて記録すると、生活習慣と症状の関連がわかりやすくなります。日本排尿機能学会のホームページに「排尿日誌」のサンプルが掲載されています。
この日誌は、自分の体の変化を知る大切なツールです。小さな変化も見逃さず、気になることは担当医や看護師に相談しながら前向きに歩んでいきましょう。
むくみ(浮腫)には早めに対策をとる
前立腺がんの手術を受けると、足や陰部の周りにむくみ(浮腫)が生じることがあります。これは、リンパ液の流れが滞って皮膚の下に体液がたまった状態で、治療直後だけでなく何年も経ってから出ることもあります。
対策が必要なのは、治療後にむくみや重だるさを感じる場合です。
むくみが出ている部位を適切に圧迫する「圧迫療法」(弾性着衣や弾性包帯の装着)、専門の医療者が手で行うリンパマッサージ、圧迫した状態での軽い運動療法などの対策があります。これらは医師の指示のもとで行うことが大切です。また、皮膚を傷つけないように注意し、痛みや赤み、強いむくみが出たときは早めに相談しましょう。
むくみは、一度生じると完全に消すのが難しい場合があるため、早めの対処と日々のケアで軽減することが重要です。困ったときは遠慮せず、担当の医療者に相談しましょう。
治療中のリハビリテーションは早い回復につながる
前立腺がんの治療中や治療後には、体力低下や筋力低下、日常生活動作のしづらさなどが生じることがあります。こうした変化は、治療そのものや、治療中の活動量の低下が影響しています。そのため、リハビリテーションを勧められることがあります。
目的は、体の機能を保ち、回復を促すこと、治療によるつらさを和らげて自分らしい生活を続けることです。がんと診断されたどの時期からでも、症状に合わせて受けることができ、早い段階から始めることで、合併症や後遺症の予防にもつながります。
実際には、尿もれに対する骨盤底筋体操、日常生活動作の改善、呼吸やバランスの訓練などが行われます。理学療法士や作業療法士などに相談し、無理なく行うことが大切です。
性生活の悩みは抱え込まずに相談を
前立腺がんの治療によって、性機能に変化が出る場合があります。例えば、勃起しにくくなった、射精の感覚が変わった、性欲が低下したといったことです。特に神経を温存できない手術を受けた場合やホルモン療法を行っている場合に、変化を感じやすい傾向がみられます。
治療後の性機能の変化は個人差が大きく、回復の程度や時間も人それぞれです。必要であれば、医療者と相談して勃起不全治療薬などの使用を検討することもできます。パートナーとのコミュニケーションを大切にし、自分の体の変化を受け止めつつ、前向きに治療に臨みましょう。
参考資料
もっと知ってほしい前立腺がんのこと 2026年版, p.9-11


