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CNJ活動報告

前立腺がん セミナー in 高松 ~もっと話そう前立腺がん転移のこと くらしを守る早期対応のすすめ~

本レポートは2019年6月16日に開催した時の内容です。医療情報は日々進歩しています。最新の情報と変わっている場合があります。また講師の所属もそのときのものです。ご注意ください

もっと話そう前立腺がん転移のこと~くらしを守る早期対応のすすめ 高松セミナー

座長:杉元 幹史先生(香川大学医学部 泌尿器科学 教授)

目次

【座長あいさつ 講演記事】前立腺がんの基礎知識
開会にさきだち、座長の杉元先生から前立腺がんの基礎知識や疫学についてお話がありました。
杉元 幹史先生 香川大学医学部 泌尿器科学 教授

【講演記事1】前立腺がん転移について知ってほしいこと
上松 克利先生 三豊総合病院 泌尿器科 部長

【講演記事2】転移の早期発見・治療のために放射線でできること
柴田 徹先生 香川大学医学部附属病院 放射線治療科 教授

【講演記事3】治療と向き合う上で大切なこと~骨転移を体験して
川﨑陽二さん

【Q&Aディスカッション】
パネリスト:杉元 幹史 先生 上松 克利先生 柴田 徹先生 川﨑 陽二さん
司会:武内 務さん(NPO法人腺友倶楽部 理事長)

【座長あいさつ】

前立腺がんの基礎知識

杉元 幹史先生
香川大学医学部 泌尿器科学 教授

前立腺がんはどのような病気か


日本では1日に250人が新たに前立腺がんと診断され、33人が前立腺がんで亡くなっています*¹。日本人男性のがんでもっとも多いのは胃がんですが、ここ香川県だけでいえば前立腺がんの罹患者がもっとも多く、2位胃がん、3位肺がんと続いています*2。香川県では以前からPSA(前立腺特異抗原)検査を受ける方の割合(検診暴露率)が高く、そのため多くの前立腺がんが見つかっているものと推測されます。

前立腺は膀胱の出口で尿道を取り囲むようにある臓器で、精液の成分を作る場所です。前立腺の病気には肥大症もありますが、これは前立腺がんとは全く別の病気です。前立腺はよくみかんに例えられるのですが、みかんの真ん中に尿道が通っていると考えてください。みかんの実の部分が大きくなるのが前立腺肥大症で、主に皮の部分からできるのが前立腺がんです。よく前立腺肥大症の手術をしたからがんにはならないという人がいますが、それは間違い。みかんの例でいえば実の部分にトンネルを掘っただけなので、前立腺がんは肥大症の手術後でも同じように発生します。

*1 厚生労働省「全国がん罹患数 2016年速報」
(https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000468976.pdf) 90,000人罹患、約12,000人死亡をそれぞれ365日で割ったものです。
*2厚生労働省「全国がん登録」

前立腺がんの危険因子と治療法

前立腺がんは、男性ホルモンの影響を受けて増殖します。男性ホルモンの95%は精巣から、5%は腎臓の上にある副腎から出されます。前立腺がんの危険因子としてはっきりしているのは人種、年齢、家族歴の3つです。人種についていえば黒人に多く、年齢は高いほど罹患率が高くなります。また家族に前立腺がんが多い人は罹患率が高く、ある種の遺伝子も見つかっています。また、日本人の前立腺がんの罹患率は低い方ですが、アメリカに移住した日本人は罹患率が高いという調査結果*³があり、食生活も影響していると考えられています。具体的には高脂肪、高タンパク、高カロリーな食べ物は前立腺がんを発生させたり、発生した前立腺がんを悪くしたりする可能性がいわれています。

前立腺がんが転移した場合には、基本的に全身療法であるホルモン療法を行います。ホルモン療法は70年以上前から行われています。その間、転移のある前立腺がんに対する治療はほとんど変わりませんでしたが、ここ数年で治療法は目覚ましく進歩しています。これまでのホルモン療法に新しいホルモン剤や抗がん剤を併用したり、転移後であっても原発巣である前立腺に対し放射線治療や手術を行ったりすることで生命予後が延びることがわかってきています。がん治療はまさに日進月歩。前立腺がんについては、とかく過剰治療といわれがちですが、正しい知識を持って正しく治療することが大事です。むしろできることをしないことのほうが罪ではないかと考えています。

*3 中田誠司,今井強一,山中英寿,他.日本および世界における前立腺癌死亡と食摂取様式の相関分析.癌の臨床.1994; 40: 831-6.

【講演1】

前立腺がん転移について知ってほしいこと

上松 克利先生
三豊総合病院 泌尿器科 部長

前立腺がんは長くつきあう病気

前立腺がんの罹患数は年を追うごとに増加し、現在は日本人男性が生涯のうちに前立腺がんに罹患する割合は約9%、つまり11人に1人となっています。人生100年時代と言われるなか、今後さらにその割合は増えていくことが見込まれます。

2018年のがん罹患数予測によると、前立腺がんの全がん患者数に占める割合は13.6%で、胃がん、大腸、肺がんに次いで4位。年代別では50歳以上が多く、年齢が上がるにつれて増える傾向があります。私が勤める三豊総合病院の主な医療圏は、香川県三豊市、観音寺市、愛媛県四国中央市の3市で、人口では20万人弱のエリアになりますが、ここ数年は毎年大体100人前後の方が新たに前立腺がんと診断されています。

 

前立腺がんは非常につきあいが長くなる病気といわれています。がんと診断された人が5年後に生存している割合を示す5年相対生存率という指標がありますが、全がんの5年相対生存率が60%程度なのに対し、前立腺がんでは97.5%と高くなっています。*⁴

*4  国立がん研究センター がん情報サービス

前立腺がんの転移について

前立腺がんの患者さんや家族の心配といえば転移ではないでしょうか。前立腺がんの場合、がんが膀胱や直腸といった前立腺の周辺臓器に少し出てきているものを局所進行がん、さらにがんが血液やリンパの流れに乗ってリンパ節や骨、前立腺から離れた臓器などに移動し、そこで増殖することを転移といいます。前立腺がんは骨への転移(骨転移)が多いのが特徴です。骨転移のメカニズムは、前立腺にできたがん細胞の一部が血管の中にこぼれ、それが血管の流れにのって骨に到達し、そこで巣をつくって増殖していくというものです。ホルモン治療がなかなか効かなくなった状態のものを去勢抵抗性前立腺がんといいますが、その場合の骨転移の頻度は80%以上と知られています。

前立腺がんの場合は転移した場合でもさまざまな治療法があり、それらを試しながら骨転移とつきあっていくことになります。遠隔転移の5年相対生存率は、全がんでは20%を切っていますが、前立腺がんでは50%弱あり、新しい薬や治療を組み合わせることで、生存率はさらに高くなっていくものとみられています。なお、2016年から18年までの当院の前立腺がん確定患者のなかで、最初から骨転移が見つかった方は約7%程度です。

骨転移の検査と治療

転移の検査としては、血液検査であるPSAという腫瘍マーカーがよく使われており、大きな指標になります。何らかの治療を行っていてもこのPSAの数値が上がっていけば、それはがんの勢いを示すものになるので、骨転移を疑うことがあります。また、血液検査や尿検査による骨代謝マーカーというものもあり、骨に破壊があったり、何らかの影響があったりすると数値が上がります。疑いがある場合には骨シンチグラフィーで画像診断を行います。骨シンチは、骨転移の部位に集まる性質を持つ放射線物質を含む薬剤を血管内に注射して全身の骨を撮影するもので、骨転移の部位に薬剤が集まり黒く写し出されます。最終的にはCTやMRIの検査を行って確定することが一般的です。

前立腺がんの薬物治療には、主にホルモン療法、化学療法、放射線医薬品の3つがあります。ホルモン療法は転移やある程度の進行が見られる場合に柱となる治療で、男性ホルモンの分泌や働きを妨げることにより、がん細胞の増殖を抑えていくものです。この効きが悪い場合やがんが再び増殖した後には化学療法となりますが、最近は前倒しで行われることが増えており、最初の段階でリスクが高いがんだと診断した場合は、ホルモン治療と合わせて早い段階で化学療法を行うことがあります。放射性医薬品は、放射性物質(RI、ラジオアイソトープ)を含んだ薬剤を注射などで体内に投与し、その薬剤から出る放射線によって治療するもので、特に骨転移に治療効果が見られます。

また、転移しているけれどもその腫瘍量が少ない場合、あるいはリンパ節のみの転移である場合などは、手術や放射線治療などでの局所の治療を行い、かつホルモン治療を行うことで生存率が伸びるというデータが発表されていて、そうした併用療法は当院でも積極的に行っています。 (Christoper C parker et al cancer research UK,lancet2018(392)2353-66)

骨転移への対応では月に1回の注射または点滴による骨修飾薬の投与を行いますが、これには破骨細胞に作用して、骨が過剰に破壊されるのを阻止する働きがあります。骨転移には鎮痛薬も使います。オピオイドというのはいわゆる麻薬製剤になりますが、最近は痛みを我慢するよりは、こうした薬を早い段階からしっかり使って痛みで苦しまずに日々を過ごしていただいたほうがいいのではないかという流れになっています。

痛みの緩和を目的にした放射線治療もあります。骨転移のある部位に体の外から放射線を当てる外照射と、骨に集まる性質を持つ放射線物質を血管内に注射し、その薬剤から出される放射線で治療を行う内部照射です。また、痛み除去のため圧迫している骨の転移部分を取り除く、骨折予防のために大腿部や上腕部などの骨を器具で固定する方法もありますが、いずれもすべての患者さんに適しているわけではありません。主治医あるいは放射線科、整形外科の先生と連携しながら治療を進めていくことになります。

骨転移の症状

骨転移の症状としては痛みだけでなく、何らかの形で神経を圧迫することによる手足のしびれがあり、さらに悪化すると麻痺になります。骨転移の部分はもろくなるので骨折することもあり、また骨が破壊されると血中にカルシウムが流れ込んで高カルシウム血症となり、食欲不振や吐き気などを訴えられる方もいます。

骨転移を起こすことでもっとも問題となるのはいわゆる QOL(生活の質)です。インターネット調査では、医師にQOLを気にしてほしいという方が7割いるのですが、実際に主治医と話し合った方は2割程度にとどまっています。外来などで忙しそうに見せてしまっているのであれば、私たち医療者も反省すべき点もあると思うのですが、実際に話し合ったことがあると答えた人の8割が主治医から何らかの助言や提案を得られたと答えています。QOLの問題は患者さん自身から発信してもらわないとわかりません。ぜひ遠慮せず、積極的に相談してほしいと思います。

また、骨転移については、痛みやしびれなど「ちょっとおかしいかも」と感じたときには早めに主治医に伝えていただくことで、他科とも連携しながら適切な治療を行うことが可能になります。特に手足のしびれ、力が入らない、足がもつれる、踏ん張りがきかないといった症状があるときには、我慢せずすぐに受診してください。麻痺が発生してから48時間以上経過するとなかなか回復が難しいと言われています。

【講演2】

転移の早期発見・治療のために放射線でできること

柴田 徹先生
香川大学医学部附属病院 放射線治療科 教授

前立腺がんの放射線治療の方法

前立腺がんの放射線治療には大きく分けて外部照射と内部照射があります。外部照射とは、体外から病巣に向けて放射線を照射する方法で、リニアックを用いて高エネルギーX線を照射するのが一般的です。そのほか最近話題になっている陽子線や重粒子線を使う粒子線照射もあります。

一方、内部照射には、骨に集積しやすい性質を持つ放射性同位元素(RI)を注射し、病巣内部から放射線を照射する非密封RI内用療法や、密封されたRIを前立腺組織内に埋め込んで体内から照射を行う密封小線源永久挿入療法があります。

外部照射

リニアックを用いる外部照射技術の進歩について説明します。従来型の治療として3次元原体照射法(3D-CRT)があります。図に示すように、CT画像を用いて前立腺や直腸や膀胱(リスク臓器)の形状を立体的に把握して多方向からの照射野を整形することができますが、標的とリスク臓器が複雑に近接して重なる場合に、正常臓器への照射が避けられず有害反応が問題となりうるという弱点がありました。

この限界を解決できる治療技術がIMRT(強度変調放射線治療)です。これは1990年代後半に米国で開発され、日本では2000年頃から導入が始まり、香川大学医学部附属病院では2014年から実施しています。図に示すように、従来型の治療では、多方向から均一なビームを重ねて標的への線量の集中性を高めますが、近接するリスク臓器に腫瘍と同様の放射線量が照射されてしまいます。一方、IMRTではコンピューター技術を駆使してビームの強度を自在に変えることにより、線量の分布を最適化できます。その結果、IMRTでは腫瘍の形に合わせた高線量の集中を図りつつ、周辺の正常臓器をうまく避けて線量を大幅に減らすことができます。

一般的に、腫瘍への線量が高くなれば治療効果も高くなります。前立腺がんの場合も、IMRTを用いた線量増加により治療成績の改善につながると期待されます。一方、放射線治療に伴う代表的な有害反応として晩期直腸出血があります。自験例においては、従来法では10〜15%程度の発生が避けられませんが、IMRTを用いて直腸線量を低減することで、3~4%程度に低下できました。つまり、IMRTは治療効果がより高く、なおかつ安全性に優れた治療と言えます。最近では、IMRTの発展型として回転しながらより自由度の高い照射ができる強度変調回転照射法(VMAT)も出てきています。

密封小線源組織内照射

内部照射の一つとして、放射線ヨードを密封した小さなチタン製のカプセルを前立腺内に埋め込んで行う密封小線源組織内照射があります。麻酔下に会陰部から前立腺の内に線源を刺入します。病巣の内部から放射線が当たるので、優れた線量集中性を発揮します。外部照射が7〜8週間の通院治療になるのに対して、1〜2泊程度の短期入院で全ての治療が完了することも利点です。低リスクの限局性の前立腺がんに適しており、QOL(生活の質)を維持しながらも、手術や外部照射と同等の治療効果が得られます。

前立腺がんとは長いつきあいとなることが多く、まさに「山あり谷あり」です。
PSAの数値をモニターしながら、必要に応じて画像検査を追加して現状評価を行い、適切な時期に必要な治療を受けることが一番大切です。前立腺がんは骨転移を起こしやすいことが知られていますが、骨転移巣への外部照射およびRI内用療法など放射線を用いた有効な治療選択肢があります。
特に転移性骨腫瘍による脊髄圧迫には注意が必要です。背中の痛みが急に増強したり、下肢の脱力や麻痺、膀胱直腸障害が起こった時などには即時に対応することが重要です。緊急照射や外科的な除圧術の適応の判断が望まれます。

転移性前立腺がんでは、一般にホルモン治療など全身療法が主軸となりますが、最近の研究で、骨転移が小数個または腫瘍量が少ない場合には、適切な全身療法に加えて、原発巣(前立腺や精嚢)への外部照射の追加を組み合わせることにより長期生存率が改善するというデータが報告され、注目を集めています。
その他、がんの治療はまさに日進月歩で、次々に新しい治療技術や薬剤などが開発されています。複数の専門医からアドバイスをもらい、最新の情報に基づく有効な治療を考え、希望に沿う決定を支援してもらうようにしましょう。

【講演3】

治療と向き合う上で大切なこと ~骨転移を体験して~

川﨑 陽二さん
前立腺がん骨転移経験者

1958年生まれで現在60歳、徳島県に住んでいます。7年前に前立腺がんと診断されました。デイサービスセンターで介護福祉士として働きながら治療を続けており、明日からもまた抗がん剤治療(2クール目)の予定です。きょうは私なりに治療に向き合うことで大切にしてきたことや骨転移についてお話しいたします。

7年前に前立腺がんと診断されてからの自分の状態をグラフにしてみました。茶色が痛みで、紫が QOL(生活の質)を表します。がん診断を受けて放射線治療、緩和治療を行い、骨転移に関しては手術やブロック注射などを受けてきて、今に至ります。治療開始翌年からの5年のQOLはいい状態ですが、最近は痛みと半々といった感じです。


前立腺がんと診断される前は、がんのことは何も理解してなかったように思います。高熱で倒れたり貧血になったりしていました。高熱のため診察に行った内科から泌尿器科を紹介されたことで前立腺がんが見つかりました。すでに骨とリンパ節に転移があり、治療前のPSAは700ng/ml、グリコンスコアは10でした。思えばそれ以前から腰痛や肩こりといった症状は出ていたのですが、まさかがんによる骨転移とは思わず、介護職のプロとしての「勲章」と甘くみていた自分がいました。

PSAやグリコンスコアの値を見ていただければ、当時、私が受けたショックはわかっていただけると思います。下ばっかり向いてはいけない、家族もいるから前に進まなくてはと奮起しましたが、骨の痛みはときに想像を絶するものがありました。最初の骨シンチの画像をみると、背骨、骨盤、鎖骨、肋骨のあたりも黒いですが、一番ひどかったのが脊椎で、ひどい腰痛が1週間くらい続いたため放射線科の治療を受けました。その後製剤をずっと打っていた影響などもあり、新たな骨病変として腰部脊柱管狭窄症を発症。神経が圧迫され、ほとんど歩けなくなったため、ブロック注射を打って痛みを緩和。それでもまた歩けなくなったため腰部脊椎除圧術、さらに内視鏡による除圧術も受けました。内視鏡の手術は体に負担がなく、手術翌日には徳島から飛行機で福岡に行き、今回のようにセミナーで話ができたほどです。骨に製剤を打っている副作用であごの骨がもろくなりやすいため、口腔外科にも4週間に1回通い、泌尿器科や整形外科とも連携と取っていただいています。


前立腺がんとの向き合い方ですが、私はごく普通の日常生活というのを大切にしてきました。私の場合、社会の一員という認識がなくなると孤独を感じ、治療にも前向きに向き合えないのではないかと思うのもあり、今も働いていますし、それが自分には大きなプラスになっています。QOLを保つことも重要です。治療のためだからと生活をガラリと変えてはかえってしんどいかもしれません。
治療に向き合ううえで大切なことだと思うのは、私が腰痛を職業病と軽くみてしまったように自己判断はやめること。そして、小さな痛みでも主治医に訴えることです。痛みにはいろいろあります。針で刺されるようなチクチクした痛みでも、痒いような痛みであっても、今までとは違う感覚があれば訴えてほしいと思います。医師も所詮人間ですから、言わないとわかりません。それをしっかり伝えることで先生方はそれに適した治療を行ってくれるのだと思います。


*患者さん個人のご経験をお話いただきました。すべての患者さんが同様の経過を示すわけではありません

【Q&Aディスカッション】

パネリスト:杉元 幹史先生 上松 克利先生 柴田 徹先生
川﨑 陽二さん
司会:武内 務さん(NPO法人腺友倶楽部 理事長)



質問:PSA が低くても転移が生じますか。PSA2以下であれば大丈夫でしょうか。

杉元先生:診断時にPSAが2以下であれば大丈夫かといえば大丈夫とは言えません。PSAが高ければ高いほどがんの確率は高くなりますが、低いからといってがんではないということではないのです。PSA4以上で精密検査が必要とされていますが、実は4という数値にあまり意味はありません。年齢によっても違い85歳の4と50歳の4では大きく意味が変わる。つまりPSAは絶対値が問題なのではなく年齢あるいは前立腺肥大症の有無、PSAの動きを見たうえで精密検査が必要なのかどうかを判断します。グリーソンスコアが低いものはPSAをつくりますが、グリーソンスコアが高いもの、つまり正常からかなり悪くなっているものは、悪くなりすぎてPSAを自分で作らなくなり、逆に低くなることもあります。PSAが低いから安心ではなくて、低いことがかえって悪いということもあるのです。

柴田先生:柴田先生:PSA値は前立腺がんの進行度合いや病気の勢いなどを反映するので、一般的にはPSAが高いほど転移の可能性は高いと言えます。PSAが低くても転移が起こるかという質問については、考えにくいというのが適当な答えかと思います。しかし特殊な組織型のものなど、前立腺がんの腫瘍の性格によってはPSAがあまり上がらないのに転移したりする例がないわけではありません。転移の診断にはPSAの値だけではなく骨シンチやCT、MRIといった画像検査を適宜組み合わせて総合的にチェックすることが重要になります。

質問:前立腺がんを確定するために生検は必要なのでしょうか。

杉元先生:病理学的に必要です。グリーソンスコアは生検をし、顕微鏡で見ることで初めてわかります。治療方針にも大きく影響しますから、生検なしに治療を始めることはあり得ません。

上松先生:生検して初めてがんかどうかわかり、それから治療ということになりますから、基本的には必要です。例えば超高齢の方など例外的に生検ができない方もいらっしゃいますが、そうでなければ生検をしっかりして病気の勢いを見ることが必要だと思います。

質問:骨シンチはどれぐらいの間隔で受けるべきなのでしょうか。

柴田先生:骨シンチの必要性について考えてみましょう。最初の診断時に骨シンチで陽性になるという確率が10%とか15%という話がありましたが、これはリスクによります。例えば低リスク群や中リスクでも悪性度の高くない患者さんでは、骨転移の可能性が十分低いので、スクリーニング目的の骨シンチは省略可能です。しかし中リスク、高リスクの症例であれば、骨転移陽性の可能性もありますので、治療前に判定しておくことが必要ということになります。
また、治療の経過を見る時に骨シンチが必ず必要かといえば PSA が低い状態で推移していれば、まずは必要ありません。治療後にPSAの数値が上がり、これは再発ではないだろうかという状況であれば骨シンチは必要となるでしょう。また、骨転移に対する治療効果のモニタリングが必要な場合には、定期的に行うこともあるでしょう。その他、PSA の動きや患者さんの状態をみながら検査を追加する必要性を判断していくことになります。

杉元先生:補足になりますが、日本では国民皆保険のため、骨シンチを含めた画像検査をやりすぎる傾向がありますが、欧米のガイドラインでは低リスク前立腺がんでは、ほとんど転移が見つからないこと、また被ばくすることからやってはダメだということになっています。

質問:骨転移の早期発見の方法として骨シンチの他に何か方法ありますか。

柴田先生:骨シンチやCT/MRIなどが一般的で事足りると思います。研究段階の検査としてはフッ化ナトリウムという製剤を使った特殊なPETの診断が期待されています。骨シンチに比べて感度が高いといわれています。

質問:治療に向き合う上で家族や本人に対しどのように対応すれば良いでしょう。

川﨑さん:その人の性格にもよると思いますが、私自身は近からず遠からずという範囲がちょうどいいかなと思います。言葉では私は「大丈夫?」は聞きたくない時期がありました。大丈夫なわけがないだろう、と思いました。毎日しんどいと思っているときに「大丈夫?」と言われると余計腹立たしい思いをしますので、そうではなくて「今日の体調はどう?」といった感じで聞いてもらえると、精神的に安定しますし、夫婦仲も安定すると思います。

質問:転移がんは完治することはないのでしょうか。将来の希望は持てないのでしょうか。骨転移してから生存率はどれぐらい考えればいいのでしょうか。

上松先生:特に前立腺がんに関しては、リンパ節や骨への転移があっても、ある程度いろんな治療を行うことができ、遠隔転移の5年相対生存率は50%弱と、ほかのがん種に比べ高くなっています。今は次々に新しい薬が出てきていますし、薬の組み合わせ方や放射線治療の併用などにもよって、今後はさらに生存率が伸びていくことが予想されます。

柴田先生:転移がんであってもホルモン治療や抗がん剤に感受性が高いなどで効果を得られれば長期制御できる可能性があります。もとより年齢の高い方に多いがんですから、期待余命がどれくらいあるのかというところも考え、前立腺がんが命を失う原因にならにように私たちは努めています。

杉元先生:日本人にはほかの人種に比べてホルモン治療がよく効きます。そしてどこかのタイミングで前立腺あるいは転移巣に対して放射線治療を入れたほうがいいと思います。転移したところに放射線をあてることで長生きできる可能性はあると思いますし、私自身は、今後根治ということもでてくると思いますから、まだまだあきらめる必要はないと思います。

質問:骨盤内に少しリンパ節転移が見つかりました。放射線治療を希望してもホルモン療法が標準治療だと言われその治療を受けています。転移について最も良いと思われる治療法をお答えください。

上松先生:現時点での標準的な治療としては、ホルモン療法+局所への放射線治療も挙げられます。それにより生命予後が伸びるというデータも出てきているので積極的に併用を考えてもらってもいいのではないかと思います。

質問:抗がん剤治療を受けていますが、手足のしびれが気になります。

川﨑さん:私もホルモン剤が影響しているのか、抗がん剤なのか、狭窄症なのか原因はわかりませんが、両手両足に痺れがあり、右足の膝から下の感覚が鈍いですね。

上松先生:そうした痺れは抗がん剤の副作用である場合が否定できず、そうするとその抗がん剤は使いにくくなりますが、別の抗がん剤を考えるなど、患者さんの症状に合わせて相談していくことになります。

質問:Q&Aディスカッションの最後に、お一人ずつ一言お願いできますか。

杉元先生:前立腺がんの治療は日々進歩しています。そういう新しい知識を持った医療機関で過不足のない治療を受けてほしい。やりすぎもよくないし、やらなさすぎもダメです。まだまだやれることはあります。みなさんやみなさんが大切にしている人にとって有意義な話を持ち帰る機会になっていれば幸いです。ありがとうございました。

上松先生:ほかの先生方が言われるようにいろんな治療法がありますし、年齢やおかれている状況、これまで過ごされてきたなかでの人生観もあると思います。それを踏まえたうえで患者さんと相談しながら治療ができたらいいかなと思っています。みなさんも気になることは遠慮せずに、どんどん主治医に言ってほしいと思います。今日はありがとうございました。

柴田先生:皆様方から寄せられた質問のなかに「もっと安心できる治療は?」というものがありました。これは大事な疑問ですし、今受けられている治療があって、ほかにもっとないのかというお気持ちは分かります。ただ、今受けているものが標準治療であればそれは正当であり間違ったものではありません。世の中にはいろいろな治療法が存在していて、今とは違う道に行って、道を誤ることもあるかもしれません。私たち医師も新しい治療の正しい情報を患者さんに提供できるように常に準備をしておくべきですし、常にそうありたいと思います。そして「もっと安心できる治療」が提供できるよう、技術だけではなく、患者さんとの円滑なコミュニケーションや関係性を心がけ、患者さんに治療の損得を十分にお話しし、ちゃんとご納得いただくことでお互いに「安心できる」医療を目指していきたいと思っています。

川﨑さん:私の場合、前立腺がんと診断されて最初の一年は不安ばかりでしたが、それは今思えば自分に学びがなかったからです。学びがなければ不安しか残りません。先生方から話を聞くときには、ただ聞くだけではなく、それを自分なりに解釈をし、自分に当てはめて学んでいただけたら、何ら怖いことはないんではないかなと思います。よく学び、精神的な面では、深く考えすぎない。これがいいのではないかと私なりには思っています。

MAC-XOF-JP-0050-28-07

開催日 2019年6月16日(日)
開催時間 14:00~17:00
場所 かがわ国際会議場 高松シンボルタワー タワー棟6F
参加費 無料
共催 認定NPO法人キャンサーネットジャパン NPO法人腺友倶楽部 バイエル薬品株式会社
後援 香川県 高松市