性欲とオルガズム-女性編-

卵巣の摘出や機能抑制で性欲が低下

性欲は性行為をしたいという願望のことです。女性の性欲には、卵巣から分泌される男性ホルモンの「テストステロン」の変化や脳の大脳皮質に与えられる様々な刺激や要素が影響します。テストステロンは男性に多いホルモンですが、女性にも必要なホルモンで、筋肉や骨を保つ働きなどもあります。排卵前に性欲が高まるという論文もあり、そもそもセックスは生殖のための行為で、排卵直前の性交が妊娠につながるので、子孫を残すために体に備えられた仕組みといえます。しかし人間の性行為は生殖より快楽に向けられているので、必ずしも生理周期と一致しているとは限りません。
一方、卵巣を摘出したり治療のために卵巣の働きを抑制したり、閉経後の女性ではテストステロンの低下が性欲低下につながることが知られています。女性の性欲低下障害に有効な薬物が米国FDAで承認されていますが、これはホルモンではなく抗うつ薬に近い薬物です。

精神的ストレスの影響を受けやすい女性の性欲とオルガズム

性欲は男性ホルモンのテストステロンだけではなく、脳によって制御されているため、気分が乗れば1年中いつでもセックスが可能です。逆に、ストレスや不安感、疲労感が強いとき、性交痛の経験があったりセックス自体に抵抗感があったりすると、性欲が湧かず、パートナーに求められても応じたくない気持ちになります。
女性は、一般的に、キスやボディタッチ、言葉などによる精神的な快感によって性的興奮を高めていくため、男性に比べて、セックスをしたいというスイッチが入るまでに時間がかかる傾向があります。性的興奮が高まると脳が刺激され、腟の粘膜から透明な粘液(腟潤滑液)が出て潤い、腟の奥が広がり男性のペニスが挿入しやすくなります。女性ホルモンのエストロゲンは、腟の粘膜の潤いを保つ働きをしており、卵巣機能の低下や閉経によってエストロゲンの分泌が急激に低下すると腟が乾燥したり萎縮したりして、セックスのときに痛みが生じやすくなります。

オルガズムは、性的な快感が最高潮に達した「絶頂期」のことで、骨盤を支える筋肉である骨盤底筋群のリズミカルなけいれんを伴います。オルガズムに達すると、脳の中で、幸せホルモンとも呼ばれる「オキシトン」と「プロラクチン」の分泌量が増加します。ただ、男性のほとんどが射精とほぼ同時にオルガズムを得られるのに対し、女性は、セックスをしたからといってオルガズムを得られないこともあります。左右小陰唇の結合部の突起、クリトリス(陰核)は、男性のペニスと同様の器官から発達したものなので、女性が最もオルガズムを得やすい性感帯です。したがって女性は性交(腟刺激)ではオルガスムを得にくい人が多く、セルフプレジャー(マスターベーション)かパートナーによるクリトリスの愛撫でオルガズムを体験することが多いのです。またクリトリス以外でも、乳房や全身の皮膚の時間をかけた丁寧な刺激からオルガズムに達する女性もいます。パートナーとの関係性や精神的なことも性的興奮や性交痛などに影響します。これが、オルガズムが得られる性感帯がペニス(陰茎)に集中することが多い男性との違いです。

参考文献

・「Hypoactive Sexual Desire Disorder: International Society for the Study of Women’s Sexual Health (ISSWSH) Expert Consensus Panel Review(性的欲求低下障害:国際女性の性的健康研究学会(ISSWSH)専門家コンセンサスパネルレビュー)」Mayo Clin Proc. 2017 Jan;92(1):114-128.
・「Pathways of sexual desire.」 J Sex Med. 2009;6(6): 1506-1533
・「Testing the mate-choice hypothesis of the female orgasm: disentangling traits and behaviours.」Socioaffect Neurosci Psychol. 2016 Oct 25;6:31562.
・「What is orgasm? A model of sexual trance and climax via rhythmic entrainment」Socioaffect Neurosci Psychol. 2016 Oct 25;6:31763.
・日本性科学会編集:『性機能不全のカウンセリングから治療まで セックス・セラピー入門』(金原出版) 2018年
・ヘレン・シンガー・カプラン著(石川弘義訳):『新しい性の知識』(星和書店) 1997年