妊孕性温存療法~女性編~

女性がん患者における妊孕性温存療法には、主に、胚(受精卵)凍結保存、未受精卵子凍結保存、卵巣組織凍結保存の3つの方法があります。将来、妊娠・出産を希望している、あるいは希望するかもしれない女性が、がんの治療によって妊孕性が低下するリスクの高い治療を受ける際には、妊孕性温存療法を受けるかどうかを検討することが大切です。

がん治療を実施している多くの医療機関では、がん治療医と生殖医療医が連携して小児・AYA世代のがん患者の妊孕性温存療法を進めるようになってきています。がんの治療の開始を遅らせることなく適切なタイミングで妊孕性温存療法を受けるためにも、まずは、がんの治療の担当医や看護師に相談しましょう。

がん患者の妊孕性温存療法は自費診療で、高額な費用がかかりますが、現在は、全都道府県で、がんの患者の妊孕性温存療法の費用を補助する事業を行っています。例えば、胚(受精卵)凍結では35万円、未受精卵子凍結では20万円、卵巣組織凍結では40万円を上限に助成が受けられます。都道府県によってはさらに助成金を上乗せしているところもあります。また、2022年度からは、凍結した胚や卵子、卵巣組織を用いた生殖補助医療への国と都道府県による助成制度も始まりました。これらの助成制度を利用するには、都道府県が指定した医療機関で妊孕性温存療法を受ける、生殖機能温存療法を受けるときに43歳未満であることなどの条件があります。妊孕性温存療法を受けるかどうか検討する際には、胚や卵子、卵巣の採取と凍結保存の費用、年間管理料などの費用、助成制度の内容や使い方も確認するとよいでしょう。

胚(受精卵)凍結保存

排卵誘発薬で卵子の数を増やして、卵巣から卵子を採取(採卵)した後に、パートナーの精子と体外受精させ、その受精卵(胚)を凍結保存する方法です。卵子とパートナーの精子は体外受精させた後、1~6日間培養後、凍結保存します。

凍結された胚は長期保存が可能ですが、胚凍結保存には、排卵誘発開始から約2~3週間を要するため、がんの治療開始までにその時間が取れるかが重要となります。急性白血病などですぐに治療が必要な場合には、抗がん薬による治療を実施し、寛解が得られて白血病細胞がある程度減少した段階で、卵子の採取と胚の凍結保存をすることもあります。一方、加齢の影響で既に卵巣機能が低下している場合には、卵子の採取が難しい場合があります。

がんの治療が終わり、妊娠・出産を希望する時期がきたら、凍結した胚を融解し、女性の子宮に移植します。胚移植の前後には、一般的には、女性ホルモンを補充します。その時期については、がんの治療医や生殖医療医に相談しながら進めることになります。

卵子凍結保存

独身女性、あるいは、既婚女性でも何らかの理由で胚凍結ができない場合には、卵子を採取し、未授精のまま凍結保存します。初経を迎え排卵のある女性であれば、卵子の採取が可能です。胚を凍結する場合と同様、排卵誘発薬を10~14日間注射し、卵子の入った卵胞を成長させてから卵子を採取(採卵)します。採取した卵子は培養してから凍結保存します。卵子の凍結保存には、排卵誘発開始から約2~3週間を要するため、がんの治療開始までにその時間が取れるかが重要となります。急性白血病などですぐに治療が必要な場合には、抗がん薬による治療を実施し、寛解が得られて白血病細胞がある程度減少した段階で、卵子を採取することもあります。

がんの治療が終わって妊娠・出産を希望する時期がきたら、凍結保存しておいた未受精卵子を融解し、パートナーの精子と体外で受精させ、胚(受精卵)を子宮内に移植します。凍結未受精卵子を用いた体外受精による出産率は、胚(受精卵)凍結保存した場合よりも低い確率となるため、できるだけ多くの卵子を凍結しておいたほうがいいとされています。

卵巣組織凍結保存

腹腔鏡手術で卵巣組織の一部または卵巣を採取して凍結保存し、将来の妊娠・出産に備える方法です。月経が開始していない小児がんの患者、あるいは、抗がん薬の投与までに時間の猶予がなく卵子の採取が難しい場合に、卵巣組織凍結が検討されます。排卵誘発薬を使う必要がなく、がんの治療開始までのタイムラグが短くて済むのがこの治療の利点です。ただし、日本では、まだ研究段階の方法に位置付けられており、卵巣組織の凍結保存を実施している医療機関も限られています。

がんの治療が終わって、妊娠・出産が可能な状態になったときには、残っている卵巣の断面、あるいは、卵巣があった場所の近くの後腹膜などに卵巣組織の断片を移植します。一般的には、移植して4~5か月後くらいには、移植した卵巣組織で卵胞の発育が再開し卵巣機能が回復するとされます。

血液がんなどの患者の卵巣組織に関しては、その中に腫瘍細胞が含まれている可能性がゼロではないのが懸念点です。腫瘍細胞の混入が懸念されるときには、卵巣組織の病理検査などで腫瘍細胞の有無を評価します。卵巣にがん細胞が混入している可能性が高い場合には、卵巣組織の移植はできません。今のところ、日本では卵巣組織の凍結と移植は研究段階の治療に位置付けられてはいますが、すでに、凍結保存した卵巣組織の移植で卵巣機能が回復したケースや子どもを出産したケースも国内外で報告されています。

 

<参考文献>
「小児,思春期・若年がん患者の妊孕性温存に関する診療ガイドライン2017 年版」(日本癌治療学会編)

参考サイト
日本がん・生殖医療学会