妊孕性を考慮した治療選択~婦人科がん手術・放射線治療編

子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がんといった婦人科がんの治療では、女性の妊娠・出産のために不可欠な子宮や卵巣を切除しなければならなくなることが多いものの、早期がんでは、妊孕性(妊娠の可能性)を温存できる場合があります。将来子どもが欲しいと考えている場合には、担当医に自分の希望を伝え、妊孕性が温存できる可能性について確認しましょう。また、腹部や骨盤への放射線照射の際にも、妊孕性を温存するために、卵巣への放射線照射を極力避けるような治療が検討されることがあります。

子宮頸がん

子宮頸がんは、20代~30代の女性に多いがんでもあり、将来妊娠できる可能性を残せるのかどうかがしばしば問題になります。子宮頸部を円錐型に切り取る「円錐切除術」で完治が見込まれる場合には、妊孕性が温存されます。
IA1期で脈管侵襲(血管やリンパ管の中にがんが広がっている)がある場合や、IA2期以上では、広汎子宮全摘術あるいは根治的放射線治療が標準治療ですが、初期(IA 2,IB 1期 )の浸潤がんに対して妊孕性の温存を強く希望する場合には、子宮体部は温存し、子宮頸部と膣の一部、骨盤リンパ節を切除する広汎子宮頸部摘出術が試みられています。広汎子宮頸部摘出術後の妊娠・出産は、流産や早産に気をつける必要があります。

子宮体がん

子宮体がんでは、卵巣・卵管と子宮を手術で摘出するのが標準治療ですが、がんが子宮内膜にとどまり、悪性度が低い(高分化型)類内膜腺がんで、妊娠・出産希望がある場合には、妊孕性を温存するために高用量黄体ホルモン療法が検討されます。高用量の黄体ホルモンを1日2~3回内服する方法で、子宮内膜の組織を掻き出す子宮内膜全面掻把という処置を併用します。子宮内にがんが再出現するリスクもあるため、治療後は、排卵誘発や体外受精を行うなど、不妊治療によって早い段階で妊娠できるようにする場合もあります。
なお、高用量黄体ホルモン療法によって病変が消失しなかったとき、いったん消失しても再発したときには、子宮全摘手術を受けることが推奨されます。

卵巣がん・悪性卵巣胚細胞腫瘍

卵巣がんでは、両側の卵巣・卵管、子宮、大網(だいもう)(胃と横行結腸をつないでいる脂肪組織)を摘出するのが標準治療です。将来、妊娠・出産を希望していて、がんが片側の卵巣にとどまっている患者に対しては、まず腫瘍のある側の卵巣・卵管と大網のみ切除し、病理検査や腹水細胞診などでがんの広がりを調べることが大切です。その結果、IA期かつ組織学的におとなしいタイプの非明細胞がんの場合は、片側の卵巣と子宮を温存することが推奨されています。悪性卵巣胚細胞腫瘍の場合には、薬物療法がよく効くため、Ⅲ期、Ⅳ期の進行がんでも、将来の妊娠・出産を強く希望しているときには妊孕性を温存することが考慮されることがあります。それ以外の病期や病理の種類の場合、また、どのようなときにも、十分に担当医と話し合って治療法を選ぶことが大切です。

骨盤への放射線照射

直腸がん、肛門がん、子宮頸がんなどで、将来妊娠・出産を希望している女性が骨盤への放射線照射を受ける場合には、卵巣の被ばくを避け、不妊のリスクを低減するために、卵巣を移動して固定する卵巣移動術を行うことがあります。ただし、卵巣にダメージの大きい薬物療法を併用、卵巣転移のリスクが高い、妊娠が難しい年齢、閉経後などの条件に当てはまる場合は、対象外となる方法です。

一方、治療後に卵巣機能が回復して、妊娠・出産が可能にするために、造血幹細胞移植の前処置として全身放射線照射を行う際に、卵巣を金属ブロックや金属片のついたアクリル板で遮蔽して放射線を照射する方法を試みている施設もあります。

 

<参考文献>
「小児,思春期・若年がん患者の妊孕性温存に関する診療ガイドライン2017 年版」(日本癌治療学会編)
「患者さんとご家族のための 子宮頸がん・子宮体がん・卵巣がん治療ガイドライン第2版」(日本婦人科腫瘍学会編、金原出版)
「子宮頸癌治療ガイドライン2022年版 第4版」(日本婦人科腫瘍学会編、金原出版)
「卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン 2020年版」(日本婦人科腫瘍学会編、金原出版)

参考サイト
日本がん・生殖医療学会