性機能の問題だけじゃないAYA世代がんサバイバーの悩みごと

32件の研究レビューからわかったこと

がんやがん治療によって、性生活に影響を受ける患者やサバイバーは数多くいます。近年ではQOL(生活の質)維持の観点から、セクシャルヘルスに関することもがん治療に含めて考えるよう取り組まれていますが、AYA世代のがんサバイバーにとっては「性機能や妊よう性の温存」といった問題だけではありません。AYA世代には、性的にまだ発達段階の15歳から、結婚や子供を持つことを考える段階の39歳まで幅広い年代層が含まれ、それぞれの状況やニーズも大きく異なるからです。

米国の研究者グループは昨年、これまでに世界中から報告された32件のAYA世代がんサバイバーへのセクシャルヘルスに関する研究についてスコーピングレビューをし、米国がん協会の学術誌CA:A Cancer Journal for Clinicians(May/June 2021号)に発表しています(注1)。

AYA世代は体の成熟、恋愛関係の構築、年代に応じた性的な経験などが密接にかかわりあい、身体的、精神的な発達を遂げていくので一括りにできません。しかしながら、これまではAYA世代がんサバイバーのセクシャルヘルス対応でも、ホルモンの変化および勃起不全や膣乾燥といった生理学的な問題が中心で、恋愛関係やボディ・イメージといった心理的要因による影響への対応は不十分だったと、このレビュー論文は指摘しています。

スウェーデンの研究では42%から52%のAYA世代がんサバイバーが、一項目以上の性機能不全について報告しており、がん治療が終わった後も多くのサバイバーが性機能不全の問題を抱えているようです。特に女性の方が「性交時の痛みや性的な興味がわかない」といった理由で、性的な問題を報告する割合が男性より高い傾向(37%対20%)にあります。一方、540人のAYA世代を対象にした別の研究では、多くのAYA世代サバイバーはデートや初めての性交といった性的体験も一般同世代と比べて経験する時期が遅れ、性的活動の頻度も低いことも報告されていました。

恋愛関係については、がん診断を受けた時点で交際中あるいは結婚していたAYA世代も多数います。その中にはパートナーがいたことが、治療中および治療後も助けになったと回答した人もいますが、デンマークの15歳から29歳の822人を対象とした調査では、25%近くががんでパートナーとの関係がマイナスの影響を受けたと回答しています。さらに若いAYA世代でがん治療中にパートナー、あるいは同年代の人達との接触がなくなり、新たに恋愛関係を結ぶのが難しいといった悩みもあるようです。

また恋愛関係、性的な関係を望むAYA世代のがんサバイバーの多くが、いつ、どのように、自分のがん経験について打ち明けるかについて悩んでいます。自分と同年代の人よりも精神的に大人にならざるを得なかったと思う若いサバイバーは、恋愛関係になっても非サバイバーのパートナーに自分の感情をシェアしにくいという人もいます。

さらにボディイメージに与えるがんの影響をとりあげた4つの調査において、サバイバーは総じて「がんの影響で魅力的と感じられない」とボディイメージの悪化を報告しています。聞き取り調査の中で、AYA世代のサバイバーからは自意識、治療による外観の変化、そして性的行為の中で相手に傷を見せることへの懸念が示されました。

AYA世代のサバイバーは、医療ケアチームにこうしたセクシャルヘルスに関する対応や指針を望んでいても、提供してもらえていないと回答しています。一方で小児科オンコロジストはセクシャルヘルスの問題を扱うことが少なかったり、調査では女性患者の方が性的機能不全を抱える率が高いのに、医療ケアチームはむしろ男性患者に性的機能不全について尋ねることの方が多かったり、さらに鬱や心的外傷後ストレス障害(PTSD)など心理的な問題が性的機能に悪影響を及ぼしていても心理面のサポートが行われていなかったりして、AYA世代がんサバイバーへの対応が不十分であることがこれまでの研究のレビューからも浮き彫りにされました。

このレビューを主導したブルック・シャーベン博士(Aflac Cancer and Blood Disorders Center of Children’s Healthcare of Atlanta)は、「がん治療を終えたAYA世代のサバイバーも、幅広いセクシャルヘルス上の問題を抱えており、発達段階や年代に応じた個別の対策をサバイバーシップケアに織り込んでいく必要があります」と、Cancer Today誌とのインタビューで話しています(注2)。

参考にしたリンク
注1  Sexual health among adolescent and young adult cancer survivors: A scoping review from the Children’s Oncology Group Adolescent and Young Adult Oncology Discipline Committee – Cherven – 2021 – CA: A Cancer Journal for Clinicians – Wiley Online Library
注2  Sexual Health in Adolescent and Young Adult Survivors | Cancer Today (cancertodaymag.org)

翻訳・執筆 片瀬ケイ(一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ:JAMT)