性(セクシュアリティ)と人権

「がんと性」では、がんになるということと性(セクシュアリティ)のこと、ひいてはセックス(性行為)のことについて、がん患者やそのパートナー、サポーターが不安や悩みに対してなにか解決のヒントが得られたり、ちょっとこころが軽くなったりするような情報を届けていきたいと願っています。

そこで、まずは「セクシュアリティ」ってなんだろう?という、大前提となる大切なお話をさせてください。以下、翻訳文が含まれることをご容赦ください。

セクシュアリティとは、1999年に性科学世界大会(WAS)で採択され、2014年に改訂された「性の権利宣言」 によれば、生物学的性(身体が持つ性)、性自認(自身が認識する性)、ジェンダー・ロール(性役割)、性的指向(性愛の相手が異性・同性・両性か)、エロティシズム、喜び、親密さ、生殖を含み、喜びとウェルビーイング(幸福と訳されることも。身体的・精神的・社会的に良好な状態にあること)の源である旨が記されています。セクシュアリティは人権の一つであり、誰からも侵害されてはならないものです。お互いのセクシュアリティを尊重し合うことを根底に、セックスをしたいという気持ちもまた、ほかの欲求同様「当たり前」の感情として、尊重されるべきものです。

世界では、2009年に、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)、ユニセフ(国際連合児童基金)、WHO(世界保健機関)などの国際機関が共同で発表した「国際セクシュアリティ教育ガイダンス 科学的根拠に基づいたアプローチ (International technical guidance on sexuality education – an evidence-informed approach)」に基づく包括的教育が潮流となっています。2018 年には改訂版が発表され、UN Women(国際女性機関)も加わりました。2015 年に国連で採択された SDGs(持続可能な開発目標)では、「ジェンダー平等」の実現を目標の一つに掲げています。その中で、「世界中だれもが同じように、性に関することや子どもを産むことに関する健康と権利が守られるようにする」ことが謳われています。つまり性の権利を実現するには男女の平等もまた不可欠なのです。

こうした世界の流れがある一方で、日本では、セクシュアリティが基本的人権であること、ウェルビーイングにとって大切なものであることを伝える性教育がなされているとはいいがたい現状があります。子どもから大人まで、性にまつわる正しい知識や考え方を身につける機会が十分に用意されているとはいえません。一つの指標として、世界経済フォーラム(WEF)によるジェンダーギャップ指数を考えると、調査対象である世界156カ国のうち、日本は、2021年は120位、2020年は121位でした。主要7カ国(G7)でも東アジア・太平洋地域でも最下位と、性差別の大きい、封建的な価値観が根強く残る社会であることがうかがえます。「あなたは男の子なんだから」「女性らしく」といった、生物学的性に基づくジェンダー・ロールを色濃く求められる社会では、パートナーとの関係性やセックスのあり方などにも影響を及ぼします。日本社会に潜在的にある封建的価値観によって無意識のうちに侵害されているセクシュアリティがあなたのウェルビーイングを邪魔してしまうことにもなりかねません。

「セクシュアリティは基本的人権であり、パートナーとのセックスは、安心安全で楽しい、ウェルビーイングなものである。」

どうかこのことを忘れないでください。

あなたのウェルビーイングに役立つ情報に出会えることを祈っています。(こんな情報がほしい!という声もお待ちしております。)