射精障害

射精障害は、精巣がんの術後に多く見られる性機能障害の一つです。射精障害には、主に2種類あります。一つは、手術に伴う神経損傷によるもので、精子が全く外に排出されなくなるパターンです。もう一つは、逆行性射精で、精液が膀胱に逆流するしまうパターンです。多くは後腹膜リンパ節郭清術を行うことで生じます。

射精と逆行性射精のメカニズムは、次の通りです。

精子は精管の中でスタンバイしていて、よーいドンといわれる(オーガズムが来る)のを待っています。よーいドンのかけ声がかかると、精管が収縮して、精子は尿道に向かって流れてゆきます。その際精嚢も収縮します。ここで前立腺と精嚢から分泌された精しょうと精子とが混じり合い、精液となって尿道まで流れ込んできます。尿道まで精液が射出された時に括約筋の反射が起き、精子はぴゅっぴゅっと陰茎から外に出ていきます。その時膀胱の尿道への出口(内尿道口)が閉じて壁となり、精液は尿道から外へと出ていきます。これが射精のメカニズムです。しかしながら、後腹膜のリンパ節を広く郭清すると、内尿道口が開いたままとなり、精液が膀胱側に流れ込んで逆行性射精を生じたり、精液そのものが出なくなったりすることがあります。逆行性射精であっても、射精時のオルガズムそのものに変わりはありません。精液の量が減ったり、精液が尿に交じって排泄されるため、尿が白っぽくなったり、射精後に尿と一緒にどろっとしたものが出てくる場合があります。

ほかに、精巣がんではないですが感染や腫瘍の浸潤で射精管の閉塞が生じることで射精できなくなる性機能障害につながることがあります。

射精障害は治療の影響など身体的な要因で生じることもある一方、心理的なことが原因でも生じます。心身両方の原因が絡んで射精障害が起きていることも少なくありません。射精は、性的興奮があれば起きるという単純なものではないのです。勃起から射精に至るまでの神経系と血管系に関わる複雑なメカニズムがスムーズに作動して、初めて起きます。このため、種類にもよりますが、神経系と血管系に作用する抗がん剤が射精障害に関連していることもあります。

中には、がんという病気を抱え、さまざまな不安や悩みからうつ状態に陥り、射精障害を招いているケースも見られます。うつ状態はそれ自体が性欲の低下や射精障害の要因となり得るだけでなく、抗うつ薬が性欲の低下や勃起障害、射精障害の副作用を引き起こすこともあります。抗うつ薬を服薬する際には、主治医とよく相談しましょう。

がんの治療がもたらす射精障害には回復困難なものもありますが、心身の回復とともに自然と治まっていくこともあります。射精障害を起こしている原因を見極めて、適切な対応をすることが大切です。

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