がんになるということと、性のこと、セックスのこと

「もしかしてがんかも?」という心配から、診断、治療、治療後の経過―――。人生にがんというライフイベントが起きると、さまざまな不安や悩みが生じてきます。治療のことだけでなく、仕事のこと、家族のこと、将来への不安や恐怖感にとらわれてしまうこともあるでしょう。がんやその治療がもたらす身体的・精神的・社会的な痛みから、深い喪失感や悲しみに包まれて、人生におけるさまざまなことへの関心や喜びが失われたり、そのせいで周囲との人間関係がぎくしゃくしてしまったりすることも考えられます。そんな中で、性のこと、性生活のことが二の次になってしまうのも自然なことです。

一方で、性のこと、性生活に関することは、人間の営みの中でもとても大切な一部です。がんという病気とともにいる中でも、その大切さが失われるわけではありません。ときには、それが大きな悩みの種となることだって考えられます。(実際に、「治療自体よりもなによりも、一番つらかったのは治療後の性交痛だった」という患者さんの声もありました。)

しかしながら、他人には相談しづらい、とてもプライベートなテーマともいえます。治療でお世話になっている医療者にも、性に関することや性生活の悩みは相談しづらいもの。いざ、相談してみても、医療者のほうに理解が乏しかったり、性に関する相談に慣れていなかったりして、必要な情報が提供してもらえずに、悶々としてしまうことがあるかもしれません。多くの人は相談すらできていない現状があります。まずは、性のこと、性生活のことに関する不安や悩みを持つのは、とても自然であたりまえだということを知ってほしいと願っています。

そして、性に関する不安や悩みは、人それぞれです。

性について話すときにも「多様性」が尊重されるようになってきました。からだの性、こころの性(性自認)、好きになる性(性的嗜好)は必ずしも一致せず、多様な性のあり方があるということが広く認知されるようになってきました。しかし、がん医療の現場では、必ずしもそうした多様性に配慮されているとはいえません。

さらに、がんの中には、がんの部位や治療内容によって、性生活に直接的に影響を及ぼしたり、男性らしさ・女性らしさといった自分に対する感じ方に結び付きやすいものがあります。からだの性とこころの性、好きになる性が一致していても、一致していなくても、がんになったことで、改めて自分の性と向き合うことになることもあるでしょう。将来の妊娠や出産に関わる妊孕性への影響も考えられます。診断されたばかりの頃は治療のことで頭がいっぱいだったけれども、治療がひと段落した頃に、セクシュアリティの悩みが沸いてきたということもよくあります。

また、世代によっても性にまつわる悩みは異なります。思春期の子どもたちでは、こころとからだが発達するにつれて、自身の性やセックスへの関心が沸いてきます。20代や30代では、結婚や妊娠・出産が身近な問題になってくるかもしれません。もちろん、年を重ねても性や性生活の悩みは人生の大事な一部です。多様な性があるように、多様な性生活があり、「こうあるべき」があるわけではありません。あなたにとって、そして、あなたとパートナーにとって幸せなかたちを見つけることが大切です。

このサイトでは、ひとりでも多くの人に必要な情報を届けたいと願っていますが、すべての情報があなたに必要とは限らず、またすべての性の多様性に応えられるものではないかもしれません。それでも、あなたががんという病気と向き合う中で性に関して困ったときに、役に立つ情報にアクセスしてほしいとの思いからこのサイトを立ち上げました。

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