税金の医療費控除

監修者 濃沼信夫(東北医科薬科大学医学部 教授)

前年に一定金額以上の医療費を支払った場合には、かかった医療費の負担を少しでも軽くできるようにと、納めた税金が払い戻し(還付)される制度があります。医療費を支払ったら、その領収書を保存しておく習慣をつけておくとよいでしょう。

医療費控除を理解しましょう

あなたやあなたと生計を同じにする配偶者やその他の親族のために医療費を支払った場合には、一定の金額の所得控除を受けることができます。これを医療費控除といいます。

年間(その年の1月1日から12月31日までの分)に支払った医療費が10万円を超えた場合、所得税の還付申告をすると医療費控除が適用され、すでに納めている所得税が還付または軽減されます。還付申告は、確定申告とは関係なく、その年の翌年1月1日から5年間申請することができます。平均的な所得のある方ならば、およその目安として、医療費控除の金額の1割程度の払い戻しがある、と見ておけばよいでしょう。

●確定申告と還付申告の期限の違い

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医療費控除の対象となる金額の計算方法

医療費控除の対象となる金額は、次の式で計算した金額(最高で200万円)です。
医療費控除の対象額=(年間に実際に支払った医療費の合計額)-(1)保険金などで補てんされる金額-(2)10万円

* 生命保険から医療費がすべて補てんされた場合は、医療費控除はできません。

保険金などで補てんされる金額とは、以下のとおりです。

  1. 生命保険や損害保険から医療費の補てんを目的として、支払いを受ける医療保険金、入院費給付金、傷害費用保険金など。
  2. 社会保険や共済に関する法律、その他の法令の規定に基づき、医療費の支払いを理由として支給を受ける給付金。例えば、健康保険組合、共済組合などから支給される出産育児一時金、家族出産育児一時金、出産費、配偶者出産費、高額療養費、高額介護合算療養費など。
  3. 医療費の補てんを目的として支払いを受ける損害賠償金。
  4. 任意の互助組織から医療費の補てんを目的として支払いを受ける給付金。

なお、保険金などで補てんされる金額は、その給付の目的となった医療費の金額を限度として差し引きますので、引き切れない金額が生じた場合であっても他の医療費からは差し引くことができません。

なお、その年の総所得金額等が200万円未満の方は、総所得金額等の5%の金額を、実際に支払った医療費の合計額から差し引きます。

医療控除の対象となる医療費とは?

医療費控除は、病院で支払う費用だけではなく、通院のための交通費、薬局で買った薬代、付添人への賃金や食事代、寝たきりの方のおむつ代なども控除の対象になります。

●医療費控除の対象となる医療費

医療費控除の対象となるもの

●医師、歯科医師による診療等を受けるために直接必要なもので、次のような費用

  • 通院費
  • 医師等の送迎費
  • 入院の際の部屋代や食事代
  • コルセットなど医療用器具の購入代や賃借料で通常必要なもの
  • 義手、義足、松葉づえや義歯等の購入の費用
  • 身体障害者福祉法、知的障害者福祉法などの規定により、都道府県や市町村に納付する費用のうち、医師等の診療費用等に当たるもの
  • 6ヵ月以上の寝たきりの人のおむつ代で、その人の治療をしている医師が発行した証明書(「おむつ使用証明書」)のあるもの
  • 骨髄移植、臓器移植あっせんに係る負担
  • 一般的な材料(金やポーセレン)を使った歯の治療費
  • 発育段階にある子供に行う不正咬合の歯列矯正費
  • 歯科ローンやクレジットによる支払金額

●治療のためのあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師などによる施術の対価

●医師等による一定の特定保健指導の対価

●介護保険制度の下で提供される一定の施設・居宅サービスの対価

●介護福祉士等による喀痰吸引等の対価

●保健師や看護師、准看護師による療養上の世話の対価
上記以外で、療養上の世話を受けるために特に依頼した人に支払う療養上の世話の対価

●治療や療養に必要な医薬品の購入の対価

  • かぜなどの治療のために使用した一般的な医薬品の購入費用
  • 医師等の処方や指示により医師等による、診療等を受けるため直接必要なものとして購入する医薬品の購入費用

●病院、診療所または助産所などへ収容されるための人的役務の提供の対価

  • 病状からみて急を要する場合に病院に収容されるための費用

控除の対象に含まれないもの

●容姿を美化し、容ぼうを変えるなどの目的で行った整形手術の費用
●人間ドック、健康診断の費用
●自家用車で通院する場合のガソリン代や駐車料金
●治療を受けるために直接必要としない、近視や遠視のための眼鏡等の購入費用
●親族に支払う療養上の世話の対価
●親族などから人的役務の提供を受けたことに対する謝礼
●医師に対する謝礼金
●疾病の予防または健康増進のために供されるものの購入費用
●いわゆる自由診療や高価な材料を使用した歯の治療費
●容ぼうを美化するための歯列矯正費
●歯科ローンやクレジットに伴う金利および手数料

※上記には例外や判断が難しいケースがあります。個別事例に関しては税務署の担当者にご相談ください
国税庁資料「医療費控除を受けられる方へ」より

医療費控除には還付申告が必要です

医療費の控除を受けるには、所得税の還付申告が必要です。そのため給与所得者であっても確定申告をすることになります。還付申告は、確定申告とは関係なく、その年の翌年1月1日から5年間申請することができます。医療費控除に関する事項を記載した確定申告書を所轄税務署長に対して提出してください。医療費の支出を証明する書類、例えば領収書などについては、確定申告書に添付するか、確定申告書を提出する際に提示しましょう。

また、給与所得のある方は、このほかに給与所得の源泉徴収票(原本)も添付してください。確定申告書は国税庁のホームページからプリントするか、最寄りの税務署でもらうことができます。

●障害者認定を受けているがん患者さんの場合

納税者自身または控除対象配偶者や扶養親族が所得税法上の障害者に当てはまる場合には、一定の金額の所得控除を受けることができます。これを障害者控除といいます。

控除できる金額は障害者1人につき27万円ですが、特別障害者に該当する場合は40万円の控除を受けることができます。控除対象配偶者又は扶養親族が特別障害者に該当し、かつ、納税者又は納税者の配偶者若しくは納税者と生計を一にするその他の親族のいずれかと同居している場合は75万円となります。

なお、障害者控除は、扶養控除の適用がない16歳未満の扶養親族を有する場合においても適用されます。

*:特別障害者の対象となる方
 ▽身体障害者手帳に、身体上の障害の程度が1級または2級と記載されている。
 ▽精神障害者保健福祉手帳に、障害等級が1級と記載されている。
 ▽重度の知的障害者と判定されている。
 ▽身体の障害によりいつも寝たきりの状態で、複雑な介護を必要とする。

国税庁「所得税(確定申告書等作成コーナー)」

http://www.nta.go.jp/tetsuzuki/shinkoku/shotoku/kakutei.htm

国税庁「医療費明細書用紙(PDFファイル)」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/yoshiki/02/pdf/ref1.pdf

居住地の所轄税務署の情報は国税庁のホームページをご参照ください。

国税庁「国税局・税務署の所在地及び管轄区域」
https://www.nta.go.jp/about/organization/access/chizu.htm

医療費の控除を受ける際の確定申告書の書き方の詳細は国税庁のホームページをご参照ください。

国税庁「給与所得者の医療費控除用の記載例(医療費控除を受けられる方へ PDFファイル」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tebiki2017/pdf/04.pdf

参考資料