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CNJ活動報告

もっと話そう前立腺がん転移のこと〜くらしを守る早期対応のすすめ

本レポートは2017年9月9日に開催した時の内容です。医療情報は日々進歩しています。最新の情報と変わっている場合があります。また講師の所属や肩書きもそのときのものです。ご注意ください。

座長 後藤 百万(名古屋大学医学部附属病院教授)
講師 佐藤 威文(佐藤威文前立腺クリニック院長)
加藤 真史(名古屋大学医学部附属病院講師)
川﨑 陽二(前立腺がん骨転移経験者)
武内 務(NPO法人腺友倶楽部 代表)
司会 川上 祥子(認定NPO法人キャンサーネットジャパン理事)

「もっと知ってほしい前立腺がん転移のこと」
佐藤 威文先生(佐藤威文前立腺クリニック 院長)

前立腺がんの転移を含めた病期診断

病期診断は、直腸診でがんの大きさ、広がり、浸潤を診断し、MRIで浸潤の度合いやさらにリンパ節転移を診断します。またCTスキャンではリンパ節や遠隔転移を調べ、骨転移は骨シンチグラフィーで診断します。
また、超音波だけでは見逃してしまう腫瘍を「MRI拡散強調画像(DWI)」という方法を用い、見分けることができます。新たに超音波とMRIを融合させて、その部分だけピンポイントで組織をとってきてがんと診断する、そこだけ治療を行うというような方法も始まっています。

前立腺がんの転移に対する治療

【ホルモン療法(内分泌療法)】

前立腺がんの治療では、男性ホルモンを抑えるホルモン療法が主体となります。
ホルモン療法をすると、骨粗しょう症が起こりやすくなり、また前立腺がんは骨に転移しやすく、それによって引き起こされる骨折等を総称して骨関連事象(SRE/SSE)と呼んでいます。

【去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)に対する新しい治療】

従来抗がん剤だけだったものが、新規ホルモン製剤(経口薬)、新規抗がん剤、放射性核種製剤など、新たな薬剤が使用されるようになりました。

1.男性ホルモンの合成を阻害する薬
コレステロールから男性ホルモンが作られて、これを糧に前立腺がんが増えます。その部分をブロックする薬剤です。
肝機能障害や低カリウム血症などの副作用があるので、ステロイドの服用を厳守する必要があります。また心血管疾患やその既往歴、中等度の肝機能障害がある場合などは慎重に投与する必要があります。またカリウムの値も確認する必要があります。

2.新規アンドロゲン受容体拮抗薬
いくつかの種類の薬剤が保険適応になっています。副作用は痙攣発作や食欲不振、倦怠感が一定の頻度で起きています。そのときは内容に関し理解して継続するか、主治医と相談した上で薬の量を減らす、痙攣の薬を飲んでいる方は事前に主治医に伝える必要があります。

3.第2世代抗がん剤
直接がん細胞に作用してがん細胞が分裂するところを抑えていきます。抗がん剤で、白血球が下がるため、高齢者に使用する場合は薬の量を最初から減らしたり、白血球の量を増やしたりする薬を使用します。

4.放射線核種製剤
注射により骨代謝が活発な骨転移部位に取り込まれ、薬剤より放射される放射線ががん細胞のDNAを分断します。骨の他の部位と比べると少ないと考えられていますが、骨髄にもある程度の放射線が入ってきますので、骨髄抑制が起こることがあります。したがって、投与前にヘモグロビン、白血球および血小板の数を確認したうえで見ていきます。また炎症性の腸疾患の既往がある場合は治療前に申し出る必要があります。

【骨転移に対する治療】

骨転移は、がん細胞から様々な伝達物質が出て、最終的に破骨細胞が骨を壊す状況になります。骨の回転や骨を壊していく状況を、それぞれ抗体製剤やビスフォスフォネート製剤、放射線核種製剤で抑えていきます。また、緩和照射は疼痛コントロールを目的として骨に転移のあるところに放射線をあてていきます。安静が保てれば照射できるので、骨の痛みがある人は主治医に確認するといいでしょう。

最後に、前立腺がん治療は手術、放射線療法、また複数の薬剤を組み合わせた薬物療法で患者さんを治療する集学的治療が可能になっています。骨転移の状況はどうなのか、リンパ節や肺・肝臓などに転移はあるのか、それぞれの部位に合わせて治療を組み合わせていくことによって、生存期間を延ばせる治療が可能になってきています。したがって転移がある状況や、ホルモン療法が効かない状況になっても決してあきらめずに、是非希望をもって治療に取り組んでいただければと思います。

「もっと話そう前立腺がん転移のこと〜こんなときどう対処すればいい?〜」
加藤 真史先生(名古屋大学医学部附属病院 講師)

聞き手:川上 祥子(認定NPO法人キャンサーネットジャパン)

川上: 前立腺がんの症状はどのようなものでしょうか? また骨転移が多いと聞きますが、実際どうでしょうか?

加藤: 27~60%は無症状(出典1) で見つかります。また初期には運動したときや体勢を変えたときに、鋭い痛みがでるという方もいます。尿が出にくい、排尿時に痛みや、尿や精液に血が混じる人もいます。骨転移ですが、転移のある患者さんの全体の約90%が骨に転移(出典2) しています。背骨に転移すると中の脊髄、神経が圧迫されて、最初は痛みが出て、進行すると、麻痺や膀胱直腸障害といった症状が出ることもあります。また骨折や、一部にはカルシウムが高くなることによる食欲不振や筋力低下といった症状もあります。

川上: 歩きにくいとか、どこか痛むような症状が出てきた場合、患者さん家族はどうしたらいいでしょうか。

加藤: 麻痺が出てきたらおよそ48時間以内に治療をしないと下半身麻痺が一生続くということがおきる場合があります。この場合の対応は、緊急手術や(これは脳神経外科や整形外科の先生が行います)緊急的に放射線で治療する場合もあります。痛みの場合は外来で医師や看護師に相談するのが必要でしょうし、麻痺のような対応については夜中でも救急外来などですぐに受診することが大切です。

川上: 実際生活のなかで骨折した場合はどのようにしたらいいでしょうか。

加藤: 病的骨折は通常の骨折のようには自然には治りませんが、あきらめる必要はありません。手術療法や放射線照射、骨に対する薬物療法も出てきています。また、骨折が起こる前の段階で使う薬物もあります。症状がない段階でも薬物療法を行うことで骨折のリスクを軽減させる。それによって長生きできるデータも出てきています。症状がないから治療する必要がないということはありませんので主治医と相談してください。

川上: 主治医とのコミュニケーション、どのように伝えたらいいでしょうか。

加藤: 限られた時間内での診察では、自分の考えを整理して一番困っていることをまとめ、またどこまで知りたいかということも伝えられるといいでしょう。今年、米国臨床腫瘍学会で、通常の外来診療だけで対応している患者さんと、受診しない時でも医療者が定期的に症状や副作用などについて質問票でやりとりした患者さんとの間で、生存率に差が出たというデータ (出典3)が発表され大きな話題となりました。患者さんが医療者に症状を伝えるということは、医療者もより早く対応できるので、治療効果が上がります。

  • 出典1:日本臨床腫瘍学会編: 骨転移診療ガイドライン. 南江堂, p5-7, p.13, p58, 2015.
  • 出典2:Reproduced Eur Urol.Vol66 Issue Gandagila G et al.Impact of the site of metastases on survival in patients with metastatic prostate cancer pages 325-334
  • 出典3:JAMA 2017,318 197-8

「治療と向き合う上で大切なこと〜骨転移を体験して〜」川﨑陽二さん

私は2012年に前立腺がんと診断されました。告知されたときは頭が真っ白で、骨転移のことを理解できませんでした。腰痛や肩こりは職業病や年齢的なものかなと思っていましたが、主治医から、それは骨転移だと知らされました。最初は小さな痛みから、全身を針でさされるような痛みに襲われました。がん告知からすぐにビスフォスフォネート剤の点滴を受け、現在も骨吸収抑制剤を投与しています。夜も眠れぬ痛みから、主治医に相談して放射線製剤による緩和治療を受けました。

一時期安定しましたが、4年後に新たな痛みが襲いました。椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、神経性疼痛、骨転移から影響されたと思われる痛みです。骨転移の第2の治療ととらえて、整形で治療しています。徐々に痛みが強くなり歩行困難になったので、3週間ごとに硬膜外ブロック注射を打って生活しています。

仕事は介護職でしたが、継続は無理と判断して辞めました。今はQOLを保ち自分の負担にならないような生活を続けています。治療は泌尿器科、整形外科の主治医と納得するまで話し合いました。放射線緩和治療、口腔外科受診、硬膜外ブロック注射。これらを経験してなかでも大事だと思ったのは口腔外科でした。口のなかも健康なときと違います。口腔内は荒れ、歯の痛みもあるので4週ごとに受診して、処置や消毒をしてもらっています。これからは、転倒防止策について学び、就活(社会復帰)したいと思っています。

最後に皆さんにお伝えしたいことは、職業柄とか年齢とか自己判断せずに、骨の痛みは医師でもわからないですから、小さな症状でも主治医に伝えてください。そして無理をしない。生活の質を保ったほうが、ストレスが溜まらずいい治療ができると思います。

「Q&Aディスカッション」

【パネリスト】後藤百万先生 佐藤威文先生 加藤真史先生 川﨑陽二さん 武内 務さん
【司会】川上祥子


川上:今回、多くの方からPSAの値と転移の状況との関係について質問がきています。PSAがどのぐらいアップしたら転移の可能性があるのでしょうか?

佐藤:例えば、PSA が0.005 ng/mlという方は、値のそのものは一番低い値に入っているので、現状の治療で様子をみて心配ないと思います。一方、治療して1年以内にPSAが0.2 ng/mlを早い期間で超えてきている場合は、PSA再発(生化学的再発)です。すぐに画像診断をします。

武内:放射線治療の場合、数値の最低値から2.0上がったらPSA再発と言われています 。私は最低値が0.6なので、2.6を超えたら再発ということになります。ここ4,5年前からPSA再発、転移の予備患者と言うか、いまだにはっきり見える転移は現れていません。一般的にPSA値が高いと注射剤で男性ホルモンの働きを抑えますが、私はそれをせず、前立腺のところでブロックする薬を飲んでいます。それでPSAが下がると薬をやめます。またPSAが上がってきたら再開する、間欠療法というのをやっています。あくまでも私の場合です。これは医師にも賛否があります。骨転移がいっきに広まる方もいれば、ゆっくり広がる方もいるので、自分の病状を見ながらそれにあった治療を選択してもいいかなとも思います。

また、みなさんPSAは気にされますが、ALP(アルカリホスファターゼ)はあまり馴染みがないようです。骨転移したら、ALPの値を見ていくことも大事だと思います。

加藤:ある程度進行した状況、いくつもの薬剤を使うような状況になりますと、PSAの値が変わらなくても画像で悪化する場合もあります。先ほど武内さんがおっしゃったALPがより当てになる時期もありますので、PSAが全てと考えないほうがいいということを覚えておいてください。ホルモン療法が効きにくくなった段階だと間欠療法も合う人と合わない人がいる。個々の患者さんの状況に応じて主治医と相談するのがいいと思います。

後藤:PSAの有用性は前立腺がんの病期や時期によって違ってきますので、患者さんに合った細かい説明が必要です。患者さんの状況によって治療方針や考えが異なりますので、患者さんの病状を一番知っている主治医と相談するのが大切です。

川上:食習慣について教えてください。

加藤:特に、何か一つのものを食べればいいというものはありません。大豆(イソフラボン)がいいという傾向はありますが、世界中で評価されているわけではありません。米国などでは赤身の肉はよくないのではないかということが、何万人のスタディで言われていて、傾向はありますが、はっきり証明されていないのが現状です。

佐藤:今30代の方が、30年後の前立腺がんの発症を抑えるために、イソフラボンやリコピンの摂取は効果があるかもしれませんが、前立腺がんと診断されてから食生活を改善しても間に合わないでしょう。それよりも、ホルモン療法が入っているので、肝機能障害や脂肪肝などを併発することで、後で新しいホルモン療法や抗がん剤などが使えないということがないように食生活を正しくして体調管理をすることが大切です。

川崎:私は、野菜中心で肉や魚も晩酌もやっています。

川上:最後に皆さんから来場者にメッセージをお願いします。

武内:痺れがでたり、膝がかくっとしたりすると要注意ということを覚えておいてほしい。骨転移1つ2つがあってもうだめだと思う人もいますが、積極的な治療で改善するケースが珍しくありません。なんか工夫できないかということも相談されてみたらどうでしょう。

川崎: 私の場合、私をとりまく医療スタッフがすごくよかった。主治医から臨床心理士を紹介され、臨床心理士からソーシャルワーカー、看護師と、彼らに精神面を、主治医には身体面をサポートしてもらいました。その方たちから、ストレスをためないことを教わりました。骨転移のことも理解して、前向きに治療をすることで、ストレスをためない今があると信じています。

加藤:ストイックに生きるわけではなく、80代の人を検査すると6 割から前立腺がんが見つかるというデータもあります。前立腺がんをお持ちのみなさんが全て命にかかわるというわけではないので、病気と付き合いながら、ぜひ人生を楽しんでいただきたいです。

佐藤:一言でいうとあきらめない。どのような厳しい状況にあっても常に何かのオプションはあります。ただ、患者さんによっては、残念ながら本当に厳しい最後を避けられないことはあります。そういうときにも、病院を転々として動くのではなく、気持ちを切り替えて、今を生きることが大切です。しかし、多くの方はコントロールが出来るようになっているので、やはり情報は集め、希望を持って治療にのぞむという気持ちが必要だと思います。

後藤: 30年以上前でも前立腺がんの転移のある人は多かったですが、10年以上前のホルモン治療で元気な人はたくさんいたように覚えています。今これだけ治療があるので、あまり希望をもってと言い過ぎるのもいけないとは思いますが、骨転移があっても、前向きに治療を受けたらいいと思います。

川上:ありがとうございました。

    • 出典4:Roach M 3rd, Hanks G, Thames H Jr, et al. Defining biochemical failure following radiotherapy with or without hormonal therapy in men with clinically localized prostate cancer: recommendations of the RTOG-ASTRO Phoenix Consensus Conference. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2006; 65: 965-74.

MAC-XOF-JP-0009-24-08

開催日 2017年9月9日(土)
開催時間

15:00~18:00(開場14:30)

場所

ウインクあいち 1102

参加費

無料

共催

NPO法人腺友倶楽部
バイエル薬品株式会社