不眠に関するマネージメント

がん患者さんと「不眠」

一般にがん患者さんの30~50%は「不眠」を経験するといわれています。「不眠」は睡眠障害の一つで、何らかの原因により睡眠の開始や維持が障害され、本人の苦痛や社会生活における障害を引き起こしている状態を指します。症状の個人差はありますが、診断の前後、治療中、治療終了後の日常生活において、「今までより疲れやすくなった」「よく眠れない」「眠りが浅い」という悩みを訴える患者さんは少なくありません。

眠れない時は無理に眠ろうとせずに、医師や看護師、緩和ケアチームのスタッフなどに相談してください。「眠れない不安」を打ち明けてみるだけで緊張がほぐれることもあります。また、医療者といっしょに眠れなくなっている原因を考えることで、適切な対応がとれるでしょう。がん患者さんの不眠では以下のような原因があり、複数の原因が重なっていることもあります。

がん患者さんの不眠の原因

[身体的原因]痛み、発熱、嘔吐など病気の進行や治療に伴う副作用
[生理的原因]入退院など環境の変化
[心理的原因]ストレスや不安、家族への心配など
[精神医学的原因]うつ病、適応障害、せん妄など
[薬理学的原因]ステロイド、中枢神経刺激薬など薬剤による影響

参考資料

  • 奥山徹:第Ⅱ章精神症状の評価とマネージメント3. 不眠:専門医のための精神科臨床リュミエール24.サイコオンコロジー,大西秀樹責任編集, pp.59-68. 中山書店, 東京, 2010
  • 独立行政法人 国立がん研究センターがん対策情報センター編著:患者必携「がんになったら手にとるガイド」 pp.178-182, 学研メディカル秀潤社,2011

不眠にも色々なタイプがあります

一口に「不眠」といっても、なかなか寝つけない、夜中に何度も起きてしまうなど様々なタイプがあります。また、自分では「不眠」の症状と気がつかずに睡眠の質が落ちていることもあります。がん療養時の睡眠や休息は、全身の状態を保つ大切な要素です。睡眠の量と質が落ちてくると頭痛やふらつきなど体の症状のほか、日中の集中力が欠け、ちょっとしたきっかけでイライラするなどの心の症状も現れてきます。「眠りが足りない」と感じる時は、ためらわずに主治医に相談してみてください。

不眠(睡眠障害)のタイプ

・入眠障害 (にゅうみんしょうがい)
なかなか寝つけないタイプです。不眠症状の中では一番多いことが知られています。
・中途覚醒 (ちゅうとかくせい)
寝ついた後、翌朝まで何度も起きるタイプです。
・早朝覚醒 (そうちょうかくせい)
いつもの起床時間より、2時間以上前に目が覚めるタイプです。
・熟眠障害 (じゅくみんしょうがい)
睡眠時間は十分なのに、深く眠った感覚が得られないタイプです。

参考資料

  • 奥山徹:第Ⅱ章精神症状の評価とマネージメント3. 不眠:専門医のための精神科臨床リュミエール24.サイコオンコロジー,大西秀樹責任編集, pp.59-68. 中山書店, 東京, 2010
  • 内山真:睡眠障害の対応と治療ガイドライン,睡眠障害の診断・治療ガイドライン研究会編集,pp.65-72,pp143-145, じほう,2002

「だるさ」と「不眠」

「だるさ(倦怠感)」もがん患者さんにとってつらい症状の一つです。だるさは、がんそのものによるものや、貧血、栄養不良から生じるもの、不安などの精神的な要因、抗がん剤や放射線治療の影響でも生じます。また、最近の研究からは不眠とだるさが関係しており、不眠の治療をすることでだるさや疲労感が軽くなることがわかってきました。体を動かすのもおっくうだ、集中できないなどの症状が続く時は、不眠が隠れているかもしれません。ぜひ、主治医に相談してみてください。

参考資料

  • 奥山徹:第Ⅱ章精神症状の評価とマネージメント3. 不眠:専門医のための精神科臨床リュミエール24.サイコオンコロジー,大西秀樹責任編集, pp.59-68. 中山書店, 東京, 2010
  • 独立行政法人 国立がん研究センターがん対策情報センター編著:患者必携「がんになったら手にとるガイド」, pp.178-182, 学研メディカル秀潤社,2011

がん患者さんにおける不眠治療の実際

不眠の治療について〜お薬を使わない方法〜

がんに関係した不眠の治療には、「お薬を使わない方法」と、睡眠導入剤(睡眠薬)などの「お薬を使う方法」があります。一般に気持ちをリラックスさせて、体がほぐれると気持ちよく眠れるといわれています。自分だけのリラックス法を「眠るための儀式」と習慣づけると、寝つきを助けてくれます。色々な方法を試してみましょう。

お家でできる不眠ケア~心身をリラックスさせましょう~

●ぬるめのお風呂や足浴
お風呂の温度は38~41℃と少しぬるめに、逆に足浴の温度は40~42℃と少し熱めが気持ちよいといわれています。

●軽い読書や音楽
気軽に楽しめる本を読んだり、好きな音楽を低めの音量で流して気持ちを緩めましょう。

●香り(アロマテラピー
好きな香りにはリラックス効果があります。

●リラクセーション法
身体の筋肉をいったん緊張させた後、一気に弛緩(緩める)させるリラクセーション法などがあります。

参考資料

  • 独立行政法人 国立がん研究センターがん対策情報センター編著: 患者必携「がんになったら手にとるガイド」, pp.178-182, 学研メディカル秀潤社,2011

普段の生活での一工夫

眠りに入りやすい環境作りや生活習慣も大切です。睡眠を助けるための一工夫には、次のようなものがあります。

●夕食後は、コーヒーや濃いお茶などカフェインを含む飲み物を控えましょう。
●寝酒は逆に寝つきを悪くするので、ほどほどを心がけましょう。
●夕方に軽い運動やストレッチをしましょう。
●眠る時間は「早すぎず、遅すぎず」を心がけましょう。
●寝室の照明は自分が心地よいと感じる暗さ・明るさに調節しましょう。
●お昼寝をする時は、午後3時前後に20~30分程度にしましょう。
●就寝30~60分前に入浴する時は、ぬるめの温度にしましょう。

参考資料

  • 奥山徹:第Ⅱ章精神症状の評価とマネージメント3. 不眠:専門医のための精神科臨床リュミエール24.サイコオンコロジー,大西秀樹責任編集, pp.59-68. 中山書店, 東京, 2010
  • 独立行政法人 国立がん研究センターがん対策情報センター編著:患者必携「がんになったら手にとるガイド」, pp.178-182, 学研メディカル秀潤社,2011
  • 内山真:睡眠障害の対応と治療ガイドライン,睡眠障害の診断・治療ガイドライン研究会編集, p.149, じほう,2002.

不眠の治療について〜お薬を使う方法〜

不眠のために心身のつらさが続く時などは、必要に応じて抗不安薬や睡眠導入剤(睡眠薬)が処方されることもあります。「くせになるのでは」と服用をためらうかもしれませんが、医師の指示を守って服用すれば習慣になる心配はありません。主治医や緩和ケアチームの医師に相談しながら、お薬を上手に使ってつらさを和らげてください。

原則として、睡眠導入剤は不眠症状のタイプ別に処方されます。

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参考資料

  • 奥山徹:第Ⅱ章精神症状の評価とマネージメント3. 不眠:専門医のための精神科臨床リュミエール24.サイコオンコロジー,大西秀樹責任編集, pp.59-68. 中山書店, 東京, 2010
  • 内山真:睡眠障害の対応と治療ガイドライン,睡眠障害の診断・治療ガイドライン研究会編集, p.150-151, じほう,2002.

睡眠導入剤の上手な利用方法

睡眠導入剤を飲むときは、服用量や服用時間についての医師の指示を守ることが大切です。自分の判断で量を減らしたり、増やしたりすると思わぬ副作用が生じることがあります。今の症状に合わせた処方をしてもらうためには、ぜひ「よく眠れるようになった」「まだ寝つきが悪い」など服用後の様子を医師に伝えてください。また、薬について心配なことがあるときは医師や看護師、薬剤師に相談してみましょう。

参考資料

  • 独立行政法人 国立がん研究センターがん対策情報センター編著:患者必携「がんになったら手にとるガイド」, pp.178-182, 学研メディカル秀潤社,2011

眠ろうと、がんばりすぎないで

眠れない時は、誰でも不安になってしまいます。眠ろう、眠ろうとするあまりに逆に目が冴えてしまうこともあるでしょう。少し乱暴な言い方ですが、たとえ2、3日不眠が続いたとしても、決して心配しないでください。眠ろうとがんばりすぎず、20分以上眠れない時は、一度ベッドから離れ、リラクセーション法などを試してみましょう。眠気を感じてから再びベッドに戻るようにすると、意外に眠れることもあります。

また、なかなか改善しない不眠には、抗がん剤の影響など自分では対応しきれない原因があるかもしれません。「不眠くらいで」と一人で悩まずに、まずは主治医や看護師、緩和ケアチームに相談してみてください。

下記に、不眠への対処法12箇条をあげましたので、参考にしてください。

不眠への対処法12箇条

1. 睡眠時間は人それぞれ、日中の眠気で困らなければ十分

睡眠時間は、長い人、短い人、季節によっても変化します。8時間という数字にこだわる必要はありません。

2. 刺激物を避け、眠る前には自分なりのリラックス法

就床前4時間のカフェイン摂取、就床前1時間の喫煙は避けましょう。
軽い読書、音楽、ぬるめの入浴、香り、筋弛緩トレーニングなど、自分なりのリラックス法をみつけましょう。

3. 眠たくなってから床に就く、就床時刻にこだわりすぎない

眠ろうとする意気込みが頭を冴えさせ、寝つきを悪くします。

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4. 同じ時刻に毎日起床

早寝早起きではなく、早起きが早寝に通じます。
日曜日に遅くまで床で過ごすと、月曜の朝がつらくなるので注意しましょう。

5. 光の利用でよい睡眠

目が覚めたら日光を取り入れ、体内時計をスイッチオンしましょう。
夜は明るすぎない照明で。

6. 規則正しい3度の食事、規則的な運動習慣

朝食は心と体の目覚めに重要となります。その分、夕食はごく軽めにしましょう。
運動習慣は熟睡を促進します。

7. 昼寝をするなら、午後3時前の20~30分

長い昼寝はかえってぼんやりしてしまって逆効果になることがあります。
夕方以降の昼寝は夜の睡眠に悪影響を及ぼします。

8. 眠りが浅いときは、むしろ積極的に遅寝・早起きに

寝床で長く過ごしすぎると熟睡感が減少します。

9. 睡眠中の激しいイビキ・呼吸停止や足のぴくつき・むずむず感は要注意

背景に睡眠の病気、専門治療が必要となります。

10. 十分眠っても日中の眠気が強い時は専門医に

長時間眠っても日中の眠気で仕事・学業に支障がある場合は専門医に相談しましょう。
車の運転に注意しましょう。

11. 睡眠導入剤代わりの寝酒は不眠のもと

睡眠導入剤代わりの寝酒は、深い睡眠を減らし、夜中に目覚める原因となります。

12. 睡眠導入剤は医師の指示で正しく使えば安全

睡眠導入剤は、医師の指示通りに服用し、アルコールと併用してはいけません。

(厚生労働省 精神・神経疾患研究委託費 睡眠障害の診断・治療ガイドライン作成とその実証的研究班 平成13年研究報告書より)

参考資料

  • 奥山徹: 第Ⅱ章精神症状の評価とマネージメント3. 不眠:専門医のための精神科臨床リュミエール24.サイコオンコロジー,大西秀樹責任編集, pp.59-68. 中山書店, 東京, 2010
  • 内山真: 睡眠障害の対応と治療ガイドライン,睡眠障害の診断・治療ガイドライン研究会編集, p.129, pp136-137, pp240-241. じほう,2002