非公開: 閑話けあ(13)探索試験と検証試験

臨床研究のアウトカムを「エビデンス」と云うが、エビデンスの創出はエビデンス・レベルで云うと下から上に向かっていくことになる。EBM-Evidence Based Medicineという言葉を医療者なら誰も知っていると思うが、これを理解している人は意外と少なく、EBM=RCT(Randomized Controlled Trial)と思っている医療者が多い。

臨床試験には臨床薬理試験→探索試験→検証試験という順番があるのだが、この概念はあまり知られていない。臨床薬理試験は、その代表的な試験を第1相試験と呼ぶが、試験薬を特定の患者さん(たとえば、がん患者さん)にはじめて投与し、安全性と認容性を診るものである。探索試験とは臨床仮説を立てる目的で、文字通り探索的に行われる。そして、その後に臨床仮説を検証するための検証試験が行われる。探索試験の代表は第2相試験で、検証試験の代表は第3相試験である。そして、検証試験はRCTという試験デザインで行われる。このように書けば、検証試験-RCTをいきなり行うことができないことが明確になると思うが、簡単に検証試験-RCTができると思っている医療者が決して少なくないのである。経験してみないと判らないのかも知れない。EBMという言葉が医療界で一般的になって久しく、エビデンス・レベルの定義を知っている医療者は多い。しかしながら、一つの臨床試験の報告書つまり論文を読んで、その試験のアウトカムのエビデンス・レベルを正しく評価できる医療者は少ない。一つのRCTのアウトカムのすべてが、RCTから創出されたエビデンスという理由で、一番上のレベル1だと考える医療者が多い。残念なことにRCTのアウトカムでレベル1の可能性があるものは、プライマリー・エンドポイントと呼ばれる主要調査項目だけなのだ。残りのアウトカム、つまりセカンダリー・エンドポイントはレベル1よりも数段下がる。そして、RCTが第3相の検証試験でなかったら、RCTのプライマリー・エンドポイントでもレベル1エビデンスではないのだ。また、質の悪いRCTのアウトカムは定義上レベル1であってもレベル1として扱えない。

臨床試験を企画するとき、我々はまず研究テーマのリビューを徹底して行う。そうすると、施行すべき試験デザインが自ずと見えてくる。だから、臨床試験はRCTを企画しようとして企画するものではないのだ。私が企画運営に参加する臨床試験は緩和ケア領域のものが多いので、つまりエビデンスが乏しい領域なので、探索試験の企画が多い。探索試験と云っても介入試験であるから、参加する患者さんの安全を確保することが一番大事なこととなる。そのためには、質の高い試験プロトコールを作成すること、データをきっちり管理し、解析のできる状態にすること、有害事象が疑われたら迅速に対応できる体制を構築することが求められる。日常業務の忙しい医師だけで臨床試験を企画実行することは不可能と云える。臨床試験は、その支援組織の支援によってはじめて実現できるのだ。支援組織を持たずに臨床試験を実施したら、患者さんの安全は絶対に確保できない。

簡単に臨床試験の概略を述べたが、要するに臨床試験は大変なプロジェクトなのだと云いたいのだ。プロトコールの作成を失敗したら、すべてがパアになってしまう。参加した患者さん、企画/運営者の労力、試験費用のことを考えると、失敗は許されない。失敗とは「期待した結果でない」という意味ではない。予定通り、試験を完遂できたかどうかだ。だから、非現実的な試験を組んではならないのだ。そのためにはプロトコールを作成するコンセプトの段階から審査されることが望ましい。参加施設の見込み、現実的な症例数などを吟味する。この過程を疎かにして頓挫した臨床試験を見たことがあるが、誰が責任を取るのだろうか。わが国の臨床試験は海外と比べると20年ぐらい遅れているように見える。はやく臨床試験を担う専門家が臨床試験で飯の食える時代がくればよいのだか。ちなみに私は臨床試験を企画運営して給料を貰ったことはない。

公開日:2012年2月23日 最終更新日:2016年1月22日