非公開: 閑話けあ(11)引退

莫逆の友が突然、引退を決意した。監督に辞めると云ったあと、私に電話をしてきた。私は「なぜ辞めると云うまえに相談してくれなかったのか」と怒った。すると、友は「お前に止められるから」と答えた。私は「山本も頑張っているから、俺も頑張ろう」と数え切れないぐらい思ってきた。そして、山本は私の夢だった。山本には才能があった。素質があった。しかし、山本は「生え抜き」ではなかった。それが山本には不利に働いたようだ。

どこも実力の世界と思いたいが、実力だけでは生き残れない。劣悪な環境、家族の事情、山本の才能以外の要因が山本に引退を決意させた。そして私は、ひとつの夢が終わったと感じた。しかしすぐに、また山本という夢を見たいと思った。勝手な話だが、山本が新しい生き甲斐を見つけ、それに邁進する姿が見たい。私は目標に向かう山本が好きだった。山本の目標が好きだった訳ではない。私はふと、「目標は達成できないと駄目なのか?」と自分に問うてみた。- 我々にはいつ終わりがくるか判らない寿命がある。すると結果よりも過程の方が大事であることは自明だ。

「なにを成し遂げるか」ではなく、「なにを成し遂げようとするか」が大事だと感じる。山本は「頂」を目指していたから、山本だったのだ。山本は「頂」に立たなかっただけなのである。事情ができて途中で降りていったのである。山本が次の「頂」に向かって登りはじめたら、私はまた山本が「頂」に立つという夢を見ることができるはずだ。なんだ、なにも変わってはいないではないか。

岩瀬 哲
著者プロフィール:岩瀬 哲

東京大学医学部附属病院緩和ケア診療部 副部長
1994年埼玉医科大学卒業。2003年より現職。緩和医療学と臨床試験データ管理学が専門。座右の書は「葉隠聞書」。元ボクサー。JAZZはダラー・ブラントの「アフリカン・ピアノ」。リチャード・ドーキンスに影響を受け「進化医学」も標榜している。
2007年以降もっとも力を注いでいる業務は、がん患者と家族を中心とする「地域医療連携」。がん患者と家族には「かかりつけ医」が必要と訴えている。
日本乳癌リサーチネットワーク(JBCRN)と日本緩和ケア検証ネットワーク(JPCAN)の科学ディレクター兼任。2011年8月、TIA(一過性脳虚血発作)を発症するも復活。

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