非公開: 閑話けあ(8)登山家と臨床家

登山家は山に登る理由を聞かれたら、「そこに山があるから」と答えると云う。同じように、「そこにがんがあるから」と局所治療(手術)を考えたり、全身治療(抗がん剤治療)に患者さんを迷わず誘導する臨床家(医師)が居るが、根治性のない治療を提供するのであれば、何が治療の目的なのか考え直した方が良いだろう。

登山家は自分のために山に登るが、臨床家は自分のために医療を提供するのではない。また、根治性がないからと局所治療や全身治療を否定する医師もしかり。疼痛治療をはじめ、苦痛を取るのは確かに医師の仕事だが(この専門家を緩和ケア医と呼ぶ)、局所治療や全身治療が苦痛緩和に役立つことがある。わが国にはPalliative Chemotherapy (緩和的化学療法)という概念がないが、Oxford のPalliative Medicineという成書には詳しく紹介されている。偏り(バイアス)は良質で安全な治療の妨げになると思う。腫瘍学(oncology)と緩和医療学(palliative medicine)はヒトが勝手に分けて学問と呼んでいるだけで、腫瘍が引き起こす体の不具合は、どちらか一方の学問によって最もよい医療が提供されるものではないと考える。

ところが、わが国のオンコロジストに緩和ケアを学ぶ医師は少なく、緩和ケア医はそれ以上にオンコロジーを学ばない。もちろん、これは教育制度の上の問題が一番大きいのだが、緩和ケアは「がん臨床の基礎」だと思われる。これを概念図にしたものが下記。参照されたい。

岩瀬 哲
著者プロフィール:岩瀬 哲

東京大学医学部附属病院緩和ケア診療部 副部長
1994年埼玉医科大学卒業。2003年より現職。緩和医療学と臨床試験データ管理学が専門。座右の書は「葉隠聞書」。元ボクサー。JAZZはダラー・ブラントの「アフリカン・ピアノ」。リチャード・ドーキンスに影響を受け「進化医学」も標榜している。
2007年以降もっとも力を注いでいる業務は、がん患者と家族を中心とする「地域医療連携」。がん患者と家族には「かかりつけ医」が必要と訴えている。
日本乳癌リサーチネットワーク(JBCRN)と日本緩和ケア検証ネットワーク(JPCAN)の科学ディレクター兼任。2011年8月、TIA(一過性脳虚血発作)を発症するも復活。

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