非公開: 閑話けあ(4)麒麟(きりん)

南北朝時代、北畠顕家という人物が「麒麟」と呼ばれていたと云う。北畠顕家は公家であったにも関わらず陸奥を平定、武士団を率いて鎌倉を凌駕し、京まで登って足利尊氏を九州に落とした。すごいカリスマ性があったのであろう。江戸時代には松平忠輝という「麒麟」がいた。徳川家康の第六子で、一流の武人であっただけでなく、西洋の思想や科学を学び、鎖国をしていた我国で国際色豊かな知識を持っていたらしい。

どうも「麒麟」は血筋がよく、並はずれた知能と運動能力、そして人望を持ち合わせた人物に与えられる称号のようだ。私の後輩に「麒麟」と呼ぶにふさわしい医師がひとりいる。彼はお父さんも医師で本人は鉄門(東大)。学生時代はアメフト部だったと聞く。私は彼を研修医のときから知っているが、とても礼儀正しい男だった。その後、国立がんセンターでオンコロジーを学び、現在は東大病院で助教をしている。国立がんセンターの時代に、私の友人のオンコロジストにぜひ会わせたい優秀な若手が居ると云われ、紹介されたのが彼だった。私は友人に「すでに同じ評価をしている」と伝えた。

私は今年の夏にTIA(一過性脳虚血)を起こしたとき、改めて生命には限りのあること、その終焉はいつ来るか判らないもの、いつ来てもおかしくないもの、と再認識できた。このために、できるだけ早く自分の無形なる遺産を渡す相手を決めたいと思った。有形なる遺産は家族だが、そちらは何もないし(借金はあるが)興味もない。それで現在は、私の無形なる遺産をぜひ「麒麟」に受けとって欲しいと想うばかりなのだ。私の無形なる遺産とは「人との繋がり」と「システム」である。

「システム」はある目的に向かって、その目的のために動員した機能をもっとも合理的に運用していく組織と定義される。私は臨床仮説を探索あるいは検証する目的で、その目的のためにデータマネージャを動員して、データセンターを構築した。もちろん一人では出来ない。尊敬する生物統計家と一緒に手作りで進めた。データセンターは臨床試験を支援し、研究の品質を管理する。わが国ではまだ馴染みのない仕事と云えるが、いつしか私のライフワークになってしまった。

岩瀬 哲
著者プロフィール:岩瀬 哲

東京大学医学部附属病院緩和ケア診療部 副部長
1994年埼玉医科大学卒業。2003年より現職。緩和医療学と臨床試験データ管理学が専門。座右の書は「葉隠聞書」。元ボクサー。JAZZはダラー・ブラントの「アフリカン・ピアノ」。リチャード・ドーキンスに影響を受け「進化医学」も標榜している。
2007年以降もっとも力を注いでいる業務は、がん患者と家族を中心とする「地域医療連携」。がん患者と家族には「かかりつけ医」が必要と訴えている。
日本乳癌リサーチネットワーク(JBCRN)と日本緩和ケア検証ネットワーク(JPCAN)の科学ディレクター兼任。2011年8月、TIA(一過性脳虚血発作)を発症するも復活。

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